安敦誌


つまらない話など
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景気循環

あくびというのは、伝染する。人があくびをしているのを見ると、なぜかこちらまであくびが出てくる。きっと、あくびウィルスの仕業だ。というのは冗談だけれども、実感としてそういう記憶を持っている人は多いだろう。

「科学的」に説明することも、あるいは不可能ではないだろう。同じ部屋にいる人間は、退屈な会議などの状況を長時間共有していたりして、誰もが似たような覚醒度の低下状態にあるのかもしれない。あるいは、会議室の換気が悪く、二酸化炭素濃度が高まっていたのかもしれない。千人くらい収容可能な大ホールの三階席というのは、観客の呼気が滞留していて、催し物が退屈に感じられる客にとっては、居眠りのひとつも出やすい環境と言える。

ただし、やはり一番重要なのは、人間の心理だろう。それまで気付かなかった自分の眠気に気付くきっかけを、他人のあくびが提供するのだ。「言霊」といって、口に出した言葉はそれ自身が独り歩きして状況を変えるという信仰があるらしいが、これも似たようなものだろう。「何が何でも勝つ」と言えば、周囲の心理は無意識ながらも影響を受ける。「もう勝てないかもしれない」と言えば、やはり無意識ながらも周囲は影響を受ける。古来信仰される事柄というのは、多くの迷信が混ざってはいるものの、やはり一定の真理を含んでいるものなのだと思う。

今、マスメディアでは「百年に一度の経済危機」という言葉が飛び交っている。マスメディアは主権者である国民が正しい判断を下すために必要な、重要で正確な情報を知る権利を保証する、言ってみれば民主主義の根幹を成す装置である。各種公式発表を曲げることなく伝えたり、複雑でわかりにくい情報に解説を加えてみたり、公式には公表されない情報を掘り出してみたりする。国民が民主主義国家の「王」であるとすれば、マスメディアは王の目、王の耳となる情報参謀ということになるだろう。

しかし、子供の頃からマスメディアによってアニメや映画などの娯楽を交えて大切に育てられてきた「王」は、マスメディアに頼らずに情報を集め、マスメディアに頼らずに判断を下すのが苦手な、暗愚な「王」になってしまった。宦官にかしずかれて操られる皇帝のようになってしまった。しかし、命を懸けて「王」に直訴するマスではない各種メディアによって、本来賢明な「王」は、いまマスメディアと距離を置こうとしている。

しかしなんといっても、マスメディアは言霊遣いであるから、その力によって未だ「王」を呪縛し続けている。言霊よりも強力な、音楽や映像などの力も駆使しながら、必ずしも悪意ではなく、不完全な善意によって「王」をその制御の下に留めようと、継続的な努力をしている。

マスメディアとは、単に受け手の多いメディアを指す。新聞やテレビも、依然としてマスメディアの代表である。しかし、地方紙や雑誌や新書などといった既存のメディアの中にも、必ずしもマスではなく、かといって個人の口コミレベルでもない、そうした中規模メディアが、日本にはまだ残されている。かつてネットはマスではないメディアの代表であったが、今では必ずしもそうではなく、Yahoo! Japanなどはニュース配信者として極めてマスに近い存在になっているし、「個人」のブログでさえ、"404 blog not found"や「痛いニュース」などは、特定の読者層のための中規模メディアに成長している。

そこに渦巻く刺激的で感情的な情報に、無意識どころではない影響を受けてしまうが、ときどきそこから距離を置いて、例えば川原を散歩して橋のたもとに住む現代の「川原者」の横を通り過ぎてみたり、バブル期に建てられた公営施設の展望台などから街の姿を鳥瞰しつつ、来客たちのたわいない話を聞くともなく聞いてみてもいいかもしれない。人々は想像に反して醜悪であったり、想像に反して清廉であったりする。

「派遣村」という報道で、「あさま山荘事件」を思い出す。あの事件を覚えているのかというと、覚えていない。あの時は母の胎内にいて、ちょうど臨月近くだったから、覚えていないというより、もとより知らない。そんなもの見ていると体に悪いなどとたしなめられつつ、結局母はテレビに食いついて報道を見続けたそうだ。あれで、共産革命の印象は、ただの暴力犯罪の水準にまで貶められた。派遣村もまた、そんな時代のことを引用しながら、非正規雇用者を弱者利権に群がる、不当要求モンスターへと貶められた。

もちろん、良い面も悪い面も含め、派遣労働には多様な側面があって一概に論じることができない。自由を求めて好きで派遣を選んだ人もいれば、面接に落ち続けて消去法的に選ばざるを得なかった人もいる。知能もスキルも低く、年収も生活保護水準以下の人もいれば、勤務していた部署ごと消滅する前には一流エンジニアとして活躍していた、一流の遊撃手といったような感じの派遣技師もいる。契約を切られてもすぐに次の契約が取れる人もいれば、しばらくは無理という人もいる。住居を失う人もいれば、失わない人もいる。一度帰ることのできる実家がある人もいれば、ない人もいる。失業保険を一定期間受けられる人もいれば、受けられない人もいる。

それらの諸相を持った「非正規雇用者問題」が、「派遣村」のあつかましい活動家の声で極めてシンプルな印象に化けてしまった。感情的に叩き甲斐のある対象が非正規雇用者の代表となり、そもそもなぜ非正規雇用が生じたのかという問題について、冷静に考える声はかき消されてしまった。

日本にはかつて、笠地蔵の話があった。年越しの食糧を買うために、おじいさんは藁をなって笠を編んだ。町でそれを売ろうとしたが叶わず、失意の帰途で、おじいさんは雪にまみれた地蔵さんたちを見た。おじいさんは手を合わせてから地蔵さんたちの雪を払い、売れ残りの笠をひとつずつかぶせた。すると大晦日の夜、そりを引いた地蔵さんたちが沢山な食料を置いていってくれた。因果応報、情けは人のためならず。

市場の平均的な収益傾向に対して「景気」という語を与えた人は、賢いなと思う。これは流されやすい大衆の気分であって、景気指標というものは、大衆心理が影響するものに対する統計値なのだろう。だから、景気対策とは、ぱぁーっと景気の良いことを誰かがやって見せることで、大衆の気分が「ちょっと金を使ってやろうか」というように変わるようなものでなくてはならない。金利でも財政でもなく、言霊こそが最も有効となるような場面も、あるいはあるに違いない。

ひとたび景気が良くなると、大衆は勝手に支出を増大させていく。そしてどこかで限界に突き当たり、節約が始まって景気が悪くなる。ひとたび景気が悪くなると、大衆は勝手に支出を減少させていく。そしてどこかで限界に突き当たり、消費が始まって景気がよくなる。こうして景気は循環していく。もっとも、生産し消費する人そのものが減っていく今後の日本では、GDPは減少傾向になっていくだろうが。

皆が物を売って現金に換えたいときには現金を払って物を買い、皆が物を買いたいというときには現金を受け取って物を売る人が、結局は財を成す。不景気の今、こういう状況でしか売りに出されないような貴重な商品が市場に出ているに違いなく、また賢い人が多少の借金をしてでもそれを買っているに違いない。洋の東西を問わず、豪商の家訓にはまず間違いなく、時流に流されるなということが書いてある。金の足りない人から笑顔で物を買い、恩を売ることのできるような人が、本物の商人なのだろう。
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by antonin | 2009-01-18 06:54 | Trackback | Comments(0)
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