安敦誌


つまらない話など
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愛しのクサンティッペ

読了。

ソクラテスの妻 (1963年)

佐藤 愛子 / 光風社



図書館で借りてきた。

昭和三十八年九月十日 初版発行
昭和三十八年九月二十日 再販発行

とある。わずか10日で重版が出ているということは、芥川賞候補にもなったという本作は当時よく売れたのだろう。現在主流の単行本よりやや小ぶりの古風なハードカバーの本で、ページをめくると見開きごとに平滑な面と横に筋の入った面が交互に現れる。そういえば昔の便箋用紙などはこうして表裏の判別がついたものだった。紙背に印刷された文字の形が凸に盛り上がっていたりして、本当の意味で凸版印刷がされていたのだなということがわかる。

そういう技術的なことにも興味を持ちながら、「女流作家」の書いた作品を読む。今では作家が女性だからと言って特別な呼び方をされることもなくなったが、昭和三十年代当時ではまだ「女史」なんていう言葉も最後の光を放っていただろうから、まぁそういう位置に置いても間違いではないだろう。

「ソクラテスの妻」といっても古代都市国家アテネでの歴史物語になるわけではなく、東京の山の手という場所で昭和二十五年に創業した質屋が十年経って没落し、地所を売り払って郊外へ去っていくという、そういう話になっている。

その過程で、質屋の主人たる夫は金にもならない文芸に現を抜かし、なおかつ趣味の文芸仲間や副職である夜間高校の教員仲間にいいように金をたかられている。仕事は杜撰で生活は堕落しているが、文学を通じた人間の高邁さなどについて述べさせたら、活き活きとしていくらでも言葉がつながる。そういう夫を本作では一貫して「ソクラテス」と呼んでいる。

その影で、算数については3桁を越えると手が出ないながらも、生活の至るところに生じる損得をしっかりと勘定し、なんとか質屋と家を切り盛りしている妻が主人公になる。妻も夫を大切には思っているのだが、その金銭的な杜撰さと、そこに付け込む夫の交友関係に、ふつふつとした怒りを積もらせる。そうした怒りがつい爆発するのが、夫が主催する文芸同人の会合の場であったりして、そういうわけで主人公はいつも金の話でキリキリと怒っている姿だけを周囲にさらし続ける羽目になる。

あぁ、主人公が気の毒だなぁ、などという感想を放つには私自身があまりにも「ソクラテス」的であったりして、参ったものだ。

日本国政府の累積国債について、その債権を保有しているのがほとんど国内の金融機関などであり、そのまた原資をたどると国民の預貯金保険類になるのだから、これは「お父さんとお母さんがお金の貸し借りをしている状態」であって、リスクの心配をする必要は全然ないのだ、というような経済学者の意見を目にする。

確かに、住宅の抵当権を握っている銀行から借りている住宅ローンであるとか、回収システムとして怖い人を組み入れている消費者金融であるとか、そういうところからの借金に比べれば、お父さんがお母さんの貯金を借りて大きな買い物をしてくるというのは、それほど害がないという見方もできないではない。

しかし肝心な問題はやはり、お父さんが借りた金をどう使っているか、そして返すあてはあるのか、なのではないだろうか。お母さんも喜ぶような商業施設の優待販売会員権であるとか、お母さんも喜ぶような電動アシスト自転車を買ってくるなら、お母さんもそれなりに喜ぶだろう。あるいは子供の教材を買ってくるとか、どうせ読まないだろうと思いながらも百科事典を揃えるというのなら、「置き場所はどうすんの」などと言いながらも、お母さんは納得してくれるかもしれない。

ところが、ちょっと「景気」を良くするために、お父さんが銀座英国屋で分不相応なスーツを仕立ててきただとか、「男の付き合い」だといって、遠い町の防犯協会の会合に出かけるために多額の交通費と滞在費を使ってきただということになれば、お母さんとしても心中穏やかではないだろう。「男には男の付き合いがあるんだ」とか、「芸のためなら女房も泣かす」とかそういうセリフを吐いて、ああそうですかと納得するお母さんもないだろう。なにしろ原資はお母さんがこつこつと倹約して貯めてきたお金なのだ。

高い車に乗るのは結構だが、お母さんや子供のための車ばかりでなく、お父さんの付き合い連中でゴルフに行くための高級セダンなんかをお母さんが貸したお金で買ってきた日には、お父さんが車に乗せて帰ってきた友人の目の前で、つい声を荒らげて文句のひとつも言ってしまうかもしれない。

なんというか、国債発行による財政出動の問題点は、ひょっとするとこんなあたりなのではないかという気がしてきた。お父さんはお母さんの貯金から大金を借りて、「景気がよくなったら必ず返すから」とか「結局は家族のためになるから今は借金をしてでもお金を使うときなんだ」とか言っては、お母さんの意見も聞かずに外で大盤振る舞いしてくる。こういうのが、「失われた十年」に見られたお父さんの姿だったのではないか。

確かに、それはそれで効果があったのかもしれない。お父さんが機嫌のいい顔をして、お友達からもらったたいそうなお土産を持って帰ってきたこともあったかもしれない。けれども、お母さんが本当に望んでいるのはそんなことじゃない。今までお父さんを信じてきたけど、もういい加減にしてください、と、お母さんはつい顔を真っ赤にして怒鳴ってしまう。売り言葉に買い言葉という具合で、お父さんは「じゃあお前がやってみろよ」というようなことを言ってしまう。

そこで、お母さんが社会に出て七転八倒している姿が、今の民主党政権なんじゃないかというように見えなくもない。実務ではどうやったって経験豊富なお父さんに敵うわけがないのだが、こうなったからには言うべきことは言っておきたい、という具合なのではないか。

私だって今までそれなりに苦労して支えてきたんだから、やるとなったらそれなりにやりますよ。失敗だってするけど、そんなの知ったことじゃありませんよ。初めてなんだから仕方がないじゃないですか。お父さんも一度は手出しできないもどかしさを経験してみたほうがいいに決まってるんだから。お母さん政権はきっとそういうことを思っているに違いない。

ところが、男の付き合いには比較的無頓着なお母さんも、代わりに女の付き合いは無視できない。お母さん仲間に「せっかくだからここもお願い」などと言われて、結局お父さん以上にお母さん仲間にたかられて困ったりしている。「そこまではちょっと・・・」などと断ろうとすると、「今まであれだけ応援してあげたのに、今になって裏切るの?」などと険悪な空気になったりもする。

子供は家で久しぶりにお父さんと一緒に食事をすることになり、お母さんの不手際を馬鹿にするお父さんの言葉を聞きながら、店屋物の料理を食べている。お母さんが見たらきっともったいないと言うだろう。お父さんのそういうところがお母さんを怒らせたんだよ、ということを子供は思っているが、言えない。

お父さんは職場を追い出されて、お母さんの本当の気持ちを少しだけ知るだろう。お母さんは社会に出て、お父さんの本当の苦労を少しだけ知るだろう。政権交替に意味があるとすれば、おそらくはそんなあたりなんじゃないだろうか。そのあとで家業が潰れて家を売り払うことになるのか、それなりに事業を立て直すことができるのか、今はまだわからない。
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by antonin | 2009-12-11 12:20 | Trackback | Comments(0)
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