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CDMA(符号拡散多重接続)

技術的な説明は後半にあります。まずは随筆から。

--

LTEも当初は3.9Gとか言っていたのが、2010年あたりから公式に4Gを名乗るようになり、最近では変調方式の主流は3Gの中心だったCDMAからOFDMに移りつつあるが、CDMAを使ってみたら技術的に問題があったというよりは、Qualcommの特許がガチガチ過ぎて他社の技術者が嫌ったから、みたいな要素が強いらしい。GIFがLZWの特許を避けてPNGになったり、bzipが算術符号化の特許を避けてbzip2になったのと似たような事情なのだとすると、CDMAというのも特許失効以降はまた興隆してくる技術なのかもしれない。

著作権が死後50年とか70年とか言い出すのと比べると、特許の知財権が出願20年というのはいかにも儚い。値付けを誤って客に逃げられるのもどうかと思うが、パブリックドメイン技術で急場をしのいで特許権が切れるのを待つというのも、なんだか技術者が報われない話だな、とも思う。特許権も発明者の死後50年間にしろ、なんてことは言わないが、著作権との不均衡も度が過ぎるとちょっとなんだかな、とは思う。特許権にしても著作権にしても、知的財産権とは本来、時限独占権の国家保証とのバーターで長期的にはパブリックドメインの知財を豊かにするための文化政策でもあったのだけれど。

Qualcommという会社は、「情報理論の父」クロード・シャノン先生だとか、「サイバネティクスの父」ノーバート・ウィーナー先生がまだ現役の教授だった時代にMITで学んだ、アンドリュー・ヴィタビさんが起こした会社らしい。「畳み込み符号のビタビ復号化」というと符号論の教科書などでお馴染みだが、こちらも最近は低密度パリティ検査符号(LDPC)なんかに押され気味という印象がある。

符号拡散多重化を、誤解を受けるのを承知で、あえて日常語で言い換えると、「分かる人にはわかる形で情報をノイズに乗せて送信する方式」といえる。符号拡散というのは、意味のあるもともとの信号にノイズを乗せてわけわからん信号にして電波に乗せるのだが、受信側も送信側と同じノイズを発生させる仕組みを持っていて、そのノイズ発生器(擬似乱数系列)の番号を合わせておくと、自分宛の信号に乗ったノイズのみキャンセルすることができる。このとき、他の受信者向けの信号は相変わらずノイズ様の波形なので、十分なS/N比が確保できる程度の混信であれば通信が成立する。

CDMAは混信信号をノイズとして押し込める通信方式なので、目的信号の強度がある程度確保できることが前提となっている。LTEでCDMAが選に漏れたのも、収容局数の増大によって通信可能な範囲が縮小して見える"Cell Breathing"という現象があって、携帯電話用途に使うには基地局配置計画が難しいというのも一因ではあるらしい。OFDMであればセグメントごとの制御が容易なので、通信チャネル当たりで使用するセグメントの個数を制限すれば、通信速度は低下するが接続は維持しやすい。

--

さて、本題。Wikipediaの日本語ページにもCDMAの項目はあるが、定性的な説明しかなく原理はわからないので、英語ページの方を参照すると、簡単でわかりやすい原理説明がある。CCライセンスで参照可能な図があったので拝借してみる。
b0004933_15404398.png

この図にあるように、目的の情報を含むベースバンド信号より十分に高い周波数成分を持った擬似乱数信号を重畳して、信号をノイズ様波形に変換する。そして受信側でも同じ擬似乱数信号を発生できるようにしておいて、受信波形に擬似乱数系列をもう一度XORで重ねると、ノイズ成分がキャンセルされ、原信号が復元される。

ただし、CDMAのMA(多重接続)たる所以は、こうして作られた複数の信号波形が、互いに異なる擬似乱数系列を持ってさえいれば、それらが同じ周波数帯域に重なっていても通信可能というところにある。多重度が高まると、ノイズが増えたのと同じ状態になるけれども通信自体は可能となる。面白いので、このCDMAの原理で画像を符号化、復号化してみる。

まず、画像を用意する。高柳健次郎さんに敬意を捧げ、最初の信号はイロハのイとしてみる。2値画像なので、1ドットずつ時系列に並べるとベースバンド信号みたいなものになる(ツールの都合で文字がアンチエイリアスされて若干グラデーションになっているけど…)。画像の解像度よりは空間周波数が十分低くなるように、300x300ピクセルのフィールドに大きく1文字だけ書いてある。
b0004933_15492017.png

次に、擬似乱数系列から生成したノイズ様データ(拡散符号)を用意する。1ピクセルずつランダムな白黒に塗り分けてある。
b0004933_15523833.png

そして、XORを取って変調符号を得る。
b0004933_1553232.png

裸眼で立体視ができる人なら、適当な距離に上の2枚のノイズ様画像を並べて重ねてみると、昔流行したステレオグラムみたいに「イ」の字が浮かび上がってくるのを確認できるだろう。

この段階では単純なXOR信号なので、拡散符号をもう一回XORしてやると、完全に元通りの信号が復元できる。それでは意味が無いので、もう一つ変調信号を作ってみる。
まず、原画像。今度はひらがなで「あ」にしてみる。
b0004933_15552220.png

フォントは「たぬき油性マジック」です。素晴らしいフリーフォントの提供に感謝します。

次に、さっきとは違う値で初期化した乱数系列で作成した拡散符号。
b0004933_15573754.png

そしてXOR合成して変調信号を作成する。
b0004933_1558035.png


今度は、「イ」の変調信号と「あ」の変調信号を単純に加算して合成信号を作成する。画像としては3階調のノイズ様画像となる。
b0004933_1621694.png

これが、2チャネル重畳した出力信号ということになる。このようにディジタルの状態で混合することもあるだろうが、実際に電波として送信する場合にはもう少しアナログ側のプロセスで混合波を生成する場合もあるだろう。送信局が別の場合には、単に複数の送信局から同一周波数帯に送信することで空中で合成されることになる。

続いて、復号化処理。さっきの合成信号に、最初の「イ」画像の符号化に使った拡散信号を重ねてみる。もはや2値データではないので、XOR演算ではなく「差の絶対値」を計算させてみる(元から2値画像ではなかったので、実は最初からこれを使っていた)。すると、こういう信号(画像)が復元される。
b0004933_1662514.png

このように、明らかに原信号は復元できているのだけれど、「あ」の変調信号がノイズとして乗っている。これは、ベースバンド信号と拡散符号との周波数の差を利用して、低域通過フィルタ(LPF)で除去することができる。画像処理として「ぼかし」を入れるのはLPFと同じことを意味するので、画像にぼかしを入れてみる(本当は1次元的な信号にLPFを掛けるので、画像の2次元的フィルタとは処理が異なるが、フィルタ処理を書くのが面倒だったのでペイントソフトのぼかし機能を利用した)。
b0004933_1616372.png

最後にコンパレータを通して2値化し、原信号を復元する。
b0004933_16173139.png

ちょっとエッジが揺れているが、だいたい元通りの図形になった。この図形だと、空間周波数はともかく解像度は拡散符号と同じ図形を使ってしまったので信号にブレが残っているが、位相の同期まで考えて復号化すれば、この程度の混信なら完全に原信号が復元できるだろう。通信に伴う空間ノイズなんかは全く考慮していないので、当たり前だが。

次に、同じように「あ」の信号も復元してみる。
拡散符号の除去でとりあえずこういう信号が取り出せる。
b0004933_16211324.png

これもLPFを通してノイズを抑制し、
b0004933_1831822.png

コンパレータを通して2値化すると、原信号が復元できる。
b0004933_16223220.png


最後に、同じ周波数帯域に収容する信号が増えるとどうなるかを試してみる。同じように「永」の字を符号化してみる。
まず、原信号。
b0004933_16234940.png

今度は明朝体ボールドで。

次に、先ほどの2種類どちらとも異なる擬似乱数系列で作成した拡散符号。
b0004933_16254855.png

XOR合成した変調信号はこう。
b0004933_16315017.png

そして今度は、「イ」「あ」「永」の変調信号を全て加算して、3チャネル同時使用の信号を作成する。今度は4階調データになっている。
b0004933_16333478.png


ここから、再び「あ」の信号を抽出してみる。
b0004933_16365019.png

やはり信号は取り出せているが、2チャネル収容の場合に比べると、全体的にノイズが強くなり、S/N比が落ちているのがわかる。

これにLPFを掛けて、
b0004933_16414434.png

2値化して復号化完了。
b0004933_16421550.png


ここではチャネル多重による擬似ノイズしか考慮していないので復号品質にそれほどの差は出ていないけれども、ここに通信で生じる外来雑音などが混入してくると、やはりS/N比の低下が効いてきて、エラー密度が上がってくるのだろう。

3信号重畳信号画像からは「イ」も「永」も復号可能だけれど、同じことの繰り返しになるので、気になる人は画像をダウンロードして自分でやってみてください。

(以上の画像処理にはPixia Ver.5を使用しました。使いやすいツールを継続的に提供していただきありがとうございます。)

--

以上でCDMAの技術的な話は終わり。で、ものの考え方としてこの符号拡散というのが面白いという話を少し。ランダムに見える文字がびっしり並んだ手紙があって、それを受け取る人はあらかじめ多数の穴が開けられたマスキングシートをもらっている。手紙にマスキングシートを重ね、穴から見えた文字をつなげていくと、その人向けのメッセージが読める。別の人は別の位置に穴のあいたマスキングシートを持っていて、それを使うと同じ手紙からその人向けのメッセージを読み取ることができる。CDMAというのは雑に言うとそういう原理になっている。

そこまで完全なランダムノイズとは見えなくても、今ひとつ何を語っているのかわかりにくい詩のような文章があって、作者の心にある何かと共通したものを持った読者だけが、そのわかりにくい詩文の中に隠された明確なメッセージを読み取る、なんていう文化は昔からあったような気がする。そして、複雑な心理を持った作者の綴る文章では、複数の読者がそれぞれの心理に応じてに独立のメッセージを読み取れる、なんていう「多重接続」もありえたかもしれない。

仕事を持って初めてわかる、子供を持って初めてわかる、家族や恋人や住まいや仕事を失って初めてわかる、なんていうコードを隠し持った文章も、世の中には多いのだろう。ノストラダムスの詩を予言書として読むのは誤検出の部類だと思うが、あからさまに言えない心情をあえて不明瞭な言葉で綴ったような詩を単に馬鹿にする人というのは、やはり拡散コードのような「言い得ぬもの」を内に持っていないと見たほうがいいのだろう。

「この作者は、実はこういうことを言っているんですよ」としたり顔で解説する人の声が大きいと、自分に向けて送られた別チャネルのメッセージがS/N限界に沈んでしまって気づかなかったりとか、あるある、それあるよね、という感じでもある。

CDMAも、初期には軍用の通信秘匿技術だった。スペクトルがブロードで、パワーピークが目立たないので、共産圏の通信傍受技術者はそこで通信が行われていることすら当初は気づかなかったらしい。現代的な意味での暗号強度は強くなかったのだろうけれども、わからない人にはわからないが、わかる人にはわかる公開通信、というのも面白いものだと思う。
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by antonin | 2013-09-29 18:10 | Trackback | Comments(0)
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