安敦誌


つまらない話など
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優性遺伝の法則

メンデルの法則の一部として、優性遺伝の法則と呼べる遺伝傾向がある。現代の遺伝学は分子生理学が主流になっていて、メンデルさんがエンドウ豆を交配していたころの素朴な生物学とは次元の異なる領域に入ってしまったようだけれども、それでも、大雑把な議論では優性遺伝の法則が現代でも通用する。

新聞社が使うような日常語としての「優性遺伝」という言葉は、優生保護法と言うときのような、ちょっと誤解された語義になっていると思う。つまり、優れた性質がより有利に遺伝していく、というような意味にとられているようにも見える。中学の生物の授業をちゃんと聞いた人であれば、これが間違いだということは理解できるが、慣用表現としてはそこまで厳密な用法も求められず、間違いはあまり批判されることもなく生き残っていく。

教科書が言う優性遺伝の法則というのは、遺伝子にも優性遺伝子と劣性遺伝子というのがあって、両者が混ざると、優性遺伝子の方に由来する形質が個体に発現する、というものになる。要するに、個体の形や機能を決める時に、勝つ方の遺伝子を優性と呼び、負けて隠れてしまう方の遺伝子を劣性と呼ぶ。ただ、実際的には形質の発現で優性の遺伝子というものは、個体に現れた形質の機能面でも「優性」であることが多い。このあたりが誤解を招く原因の一つでもあるのだと思う。

なぜこうなるのかというと、劣性遺伝子というのは、優性遺伝子と組になるとその形質が隠れてしまう。つまり、遺伝子としての生存競争を、その世代ではパスしてしまう。優性遺伝子にお任せのフリーライダーとして次世代に持ち越される。もちろん劣性遺伝子であっても劣性ホモになれば形質は発現するので、統計的に見れば、個体の生存と繁殖に有利な形質をもつ遺伝子の方が残りやすく、不利な形質を持つ遺伝子は排除されていく。

けれども、形質が常に発現する優性遺伝子に比べると、劣性遺伝子に働く淘汰圧は低くなる。特に、優性遺伝子に対する劣性遺伝子の存在比率がある水準より小さくなってくると、劣性ホモの個体が生まれる確率というのは劣性遺伝子の存在比率の2乗になってくるので、例えばある劣性遺伝子の存在率が0.1%であれば、その形質の出現比率は個体数の1ppm (0.0001%)にまで低下する。それが十分な統計的淘汰を受けるには、ほぼ均一な環境下に数十億の個体が生まれる程に繁殖するか、あるいはほぼ均一な環境下で数千世代の時間を掛けるかというように、十分に多くの個体出現を必要とする。

そういう事情があって、一定水準以下に減少したあとの劣性遺伝子というのは、短期的には淘汰圧をほとんど受けない。なので、淘汰圧を強く受ける優性遺伝子が生存上有利な形質を担いやすく、それに比べると劣性遺伝子が生存率への寄与面で「劣った」遺伝子を担うことになりやすい。

そういう効率の悪いことをしていれば、生存競争の厳しい生物界では程なく絶滅、あるいはニッチに収まるまで個体数が減少してしまうはずである。ところが、現在地球上に生息する生物の主流は、この優性遺伝の法則にしたがうタイプの、遺伝子を対で持つ生物になっている。これはなぜなのだろう。

その答えというのは既に見つかっていて、その一例として鎌状赤血球の話が生物の教科書には載っている。酸素が分子拡散で体内に行きわたる寸法より大きくなってしまった生物は、血液循環などによって能動的に酸素を体内に行きわたらせる必要があり、そういう機能面で「優れた」遺伝子とは通常の丸くつぶれた赤血球を作る遺伝子なのだが、劣性遺伝子による形質の一つである鎌状赤血球というのは酸素を運ぶ効率が悪く、この種の赤血球を持った人というのは酸素不足で貧血症状に陥りやすい。

それでもこの、二つの意味で「劣性」である遺伝子がある地域で目立つほど見つかる理由というのは、蚊によって媒介されるマラリアに感染しにくいという、副次的な特徴が理由になるらしいということがわかっている。つまり、酸素を運ぶという赤血球本来の仕事としては、鎌状赤血球というのは実に効率が悪い。しかし、マラリアという致死率の高い感染症の感染率というただ一点だけで見ると、鎌状赤血球の方が優れている。

劣性遺伝子は、それが通常環境ではあまり優れていない形質を担っていても、優性遺伝子に実質フリーライドした格好で眠り続けながら遺伝競争をそれなりに生き延びている。それは環境が激変する「もしものとき」に備えたポテンシャル採用のようなもので、これまでの生物淘汰の歴史ではそれが許されてきたということになる。

優性遺伝子は環境からの淘汰圧が強いので、形質の改善による環境適応度の向上も素早いが、環境が変わって形質が一転生存に不利になると、個体数減少も短期間のうちに進行してしまうというリスクもある。そういうリスクをヘッジする手法の一つが、劣性遺伝子を持つということだったのだろう。


で、ここからはいつものアナロジー与太話になるが、人間界でも似たような事情があって、比較的安定した環境が続けば、仕事面で優れた人たちが競争を繰り広げながら日進月歩の進化を遂げてくれて構わないわけなのだけれど、環境が激変してかつての競争の勝者たちが軒並み不調に陥るような局面では、「劣性」の中の誰かが活躍する場面も起こりやすくなるのだろう。敗戦で財閥が解体された直後の創業企業などはそういった感じだったのだろう。

昔話に三年寝太郎という話がある。普段はゴロゴロと寝ていて寝太郎と揶揄された男が、ある時突然働き出し、村に大きな富をもたらす。まあ、この話では寝太郎が寝ていた間にも実はいろいろと思案していたことになっているので単なるぐうたらとはわけが違うのだが、仕事もせずに学問ばかりしていたころの寝太郎は、ある意味では働き者に対するフリーライダーではある。

アメリカ合衆国のヴェンチャー・キャピタルや私立大学の運営態度などを見ると、こういう寝太郎たちに積極投資する姿勢と、寝太郎が寝たまま死んでしまう(起業や研究が社会的利益を上げないままに終わる)リスクを確率的にちゃんと織り込んでいる姿勢が見える。そして、その不発に終わった事業や研究も、論文や特許や投資レポートとして明文化され、知識が遺され、伝わっていく。こういうあたりが合衆国の知性の真の強さなんだろうという気がする。

日本人の場合、こういう劣性遺伝の発露、つまり、必ずしも優秀ではないが、個性的で時代に合う起業や学問というのは下火になっているように見える。要するに、長い期間、日本人を取り巻く環境というのは安定していたのだろう。そういう意味では、これまで「劣性遺伝」されてきた不遇の変人たちが、突然表舞台に立って活躍する確率は上がってくるのだろう。見ようによっては、「オタク」という人たちが実はそれなのかもしれない。もっと変態的な「劣性ホモ」が活躍するようになると、きっと世の中は面白くなるだろう。まあ、それが「良い世の中」とは呼べないのかもしれないけれど。
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by antonin | 2013-12-02 00:51 | Trackback | Comments(0)
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