安敦誌


つまらない話など
by antonin
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楽屋落ち、あるいは秋の怪談

『帰りは二人』
(andantino先生に捧ぐ)

 andantinoは、長身で腕の立つプログラマだが、訳あって無職の身だった。といっても次の仕事は決まっており、来月には新しい仕事が待っていた。今の自由は自分へのご褒美というやつだ。次の職場はスーツ着用らしいが、若い頃に仕立てたスーツはすでに体形に合わなくなってしまっていた。
 ある昼下がり、不本意ながらandantinoはハローワークへ足を向けていた。新調するスーツの代金の足しに雇用保険を受け取るためである。無駄に人であふれている職安を後にすると、ふと、ある景色がandantinoの目に入った。紅葉する山をあしらったポスターである。
 andantinoは去年のことを思い出していた。紅葉を見ようと思い立って山を目指したものの、紅葉観光の渋滞にはまり、紅葉の山に着いた頃にはもう日が暮れてしまっていた。今から出ても去年の二の舞になることは目に見えていた。けれども、しばらくは明日の予定も気にしなくていい身である。細かいことは気にしない。andantinoは愛車を北へ向けた。
 一応高速に乗ってきたわけだが、宇都宮I.C.から宇都宮日光道路に入る頃には辺りはすでに暗くなりはじめていた。有料道路を降りると幸い渋滞は無かったが、もうそんなことはどうでも良いほど暗くなっていた。いまさら引き返すのも馬鹿らしく、かといって進むのも馬鹿らしいのだが、今年の思い出にいろは坂を上ることにした。
 上り道は、アクセルとハンドルをコントロールして、ラインをトレースすることだけに集中すればよかった。引き返す道もない。余計なことは考えなくて済む。ところが、坂を上りきって中善寺湖畔に達すると、いよいよ自分の行動を反省することになる。いったい何をしに来たのか。まあ、ここまで来てしまったものは仕方がない。何か見たら帰ろう。
 左に曲がれば旧イタリア大使館別荘があるが、この時間ではもう閉館しているだろう。andantinoは漠然と車を直進させ、湖畔を走った。その道筋が湖を離れ、山へ入ろうとするところに竜頭の滝がある。そこには茶屋と土産物屋があり、そこから竜頭の滝のベストショットが拝めるわけだが、そこもすでに営業を終了していた。なにより暗さで滝が見えない。
 さらに車を進めて、くねり始めた道を少し上ると、小さな無料駐車場があった。ここから先へ進むのは無謀なような気がして、車をそこへ止めた。エンジンを回したまま、andantinoは車を降りてみた。空は暗いのだが、垂れ込めた雲が遠くの街の灯りを映して少し明るくなっているのがわかる。そこに、たぶん紅葉しているであろう木々の葉が漆黒の影を落としている。
 近くに川の音が聞こえる。道路の反対側からだ。行ってみると、そこは竜頭の滝の始点になっていて、そこから下に向かって遊歩道が続いているようだ。その先には例の茶屋があるのだろう。柵に寄り、川の方を見るが、暗くて様子がわからない。

「あの…」
「!!!」

 背後から突然呼びかけられ、andantinoは背筋が凍った。振り返るのは嫌だったが、このままにしているのはもっと嫌なので、振り返って声の主を見た。うつむいて顔が見えないが、声のとおり若い女のようである。女がもう一度呼びかける。

「あの…」
「な、なんでしょう」
「連れていってもらえませんか」
「…ど、どちらまで」
「あなたの家まで」

 嫌な感じである。だいたい、若い女がこういう無防備なことを言うのは、決まって何かの罠なのである。経験から言ってそうなのだ。普通の状況なら丁重に断るべきところだが、この闇に落ちた山の中に置いていく訳にもいかず、渋々その頼みを受け入れることにした。
 女を助手席に乗せ、車を市街に返す。女に質問をしてみる。

「ひとりで来たんですか」
「はい」
「寒かったでしょう」
「そうでもありません」

 そんなはずはない。奥日光で関東のどこよりも先に紅葉が見られるのは、夜の冷え込みのためだ。車のエアコンを高めに設定する。吹き出し口も変えてみるが、なかなか車内が暖かくならない。エンジンは冷えていないはずなのに。
 いろは坂を下る。この道には街灯がない。週末の夜には改造車でにぎわうそうだが、今日は平日だ。この時間になると坂道を走る車は少ない。ちょうど前にも後にも他の車が見えない。今ヘッドライトを消せば完全な暗闇になる。人と自分のつながりが感じられない。助手席に一人乗せているのに、孤独な気分だ。
 ひととおりのカーブが終わると、街の灯が見えた。明かりだけで、営業の終了した街を抜けると、国道沿いのコンビニに立ち寄った。女を見ると、うつむいている。髪の黒い女だった。

「ちょっとトイレ行ってくるので待ってて」

 そう言うと女は少しうなづいた。andantinoは用を足し、一応二人分のコーヒー缶などを買って車に戻った。

 「!」

 女がいない。助手席を見ると女の座っていた辺りがじっとりと濡れていて、長い黒髪がひとつかみへばりついていた。
 なんだ、濡れていたのか。なら、やっぱり寒かっただろう。他の車に乗せてもらいに行ったのか。それにしては、他に車なんていなかったな。andantinoはそんなことを考えながら10分ほど待っていたのだが、まあここまで来れば何とかなるだろうと思い、少しほっとしながら、コンビニから車を出してしまった。
 奇妙な乗客を降ろしてしまったので寄り道する必要もなくなり、高速に乗った。道は相変わらず暗いのだが、車が増えてくると安心する。ほどなく、見慣れた自宅周辺までたどり着いた。
 駐車場に車を止め、キーを抜くと、助手席側が半ドアになっていることに気づいた。半ドアで高速を走っていたのか。まあいい。降りて助手席のドアを閉めようと、いったん開けた。すると、ルームランプに照らされた駐車場の地面がじっとりと濡れている。雨は降らなかったはずだが。よく見ると、何かを引きずったように、濡れた跡が助手席から伸びている。それはまっすぐに伸びていて、その先にはandantinoの家があった。
 駐車場をあとにして家の玄関に立つと、家の窓がみな真っ暗だった。おかしいな、まだ「あっぽちゃん」が起きてるはずなのに…。andantinoはキーを取り出し、玄関を開けた。

「… お か え り … な さ い …」
「うぁぁぁあああ!」

(結)


この作品はフィクションです。
登場人物は実在する場合がありますが、書かれていることが事実とは限りません。

今年こそは・・・・・
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by antonin | 2004-10-06 18:54 | Trackback(2) | Comments(0)
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Tracked from んー at 2004-10-07 20:30
タイトル : ぐはっ
楽屋落ち、あるいは秋の怪談 んー 安敦さん ひまだったのか・・・ w えーっとぉ、私は腕の立つプログラマではありません。 私が書いたコードはバグだらけです。 周りを忙しくさせるプログラマともいいます。(わからなくなると大騒ぎする) さらに、プログラムを書くのは大嫌いです 笑。 きっと、他の社員は、私がいなくなって ほっとしていることでしょう。 (よく いままで つづいたもんだ) 雇用保険・・・ あー 今回使うかな・・・。 んー でも 手続きめんどくさいな・・・。 竜頭の滝の上と下の駐車場、どっちもしってるだけに・・・ んー・・・・ そうか あそこでひろっ...... more
Tracked from 転んでも、起きれるもん。 at 2004-10-12 20:25
タイトル : 私生活?予知夢?
あんだんちのの私生活をここで、披露?披露宴には、読んでねw ぶれを拾ってくる話は、流れたのねw。 ぶれは、日光のず~と手前(?)の鬼怒川で、台風22号の直前に遊んできました。 楽屋落ち、あるいは秋の怪談作者のあんとにんさんのお許しを得て、トラックバックしました。 主役は、あんだんちの。うふっ。... more
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