安敦誌


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生命に関する試論 (1)

パソコン通信時代からの知り合いで、押井守さんの作品を中心に幅広く批評や論考を広げる同人組織"WWF"を主宰されている「へーげる奥田」さんから、この冬に発行する同人誌の作成に参加してみませんかとお誘いを受けました。記事を書くか、あるいは議論に参加するだけでもいいというお誘いは以前にも受けたのですが(こんな本を読みました)、そのときは内容が全く理解できずに撃沈してしまいました。

今回も苦手分野でしたので残念ながらお断りすることになりましたが、次期テーマは押井守さんにまつわるテーマらしく、「攻殻機動隊」関連の話も出るので、その辺ではどうかというお話をいただきました。正直言ってこの作品から刺激されるものは少ないのですが、「これはネットワークとか生命論とかの内容に深い関係がある作品です。」という説明をいただきましたので、作品から切り離してこの点だけちょっと考えをまとめておくことにします。

例によってつまらない話になりますので、ご興味のない皆さんはまた来週。(笑)



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「生命とは何か」というのはよく論じられるテーマですが、個人的にはこの議論にあまり価値を感じません。

先日惑星の定義から冥王星が外れたことが話題になりましたが、これは「惑星」という言葉が示す対象が増えてしまって、従来は気にならなかったような区別に困るものが出てきてしまったので、「ここまでは惑星で、この先は別のもの」という決まりをつけるだけの話です。つまり、冥王星というひとつの天体だと思っていたのがカロンという伴星とつくる二重星系だったとか、火星と木星との間の小惑星のうち大型のものはどうなんだとか、そういう境界例が多く発見されたために、便宜的に定義を見直して再整理する必要があっただけです。その過程で、冥王星は水星から木星までの古典的惑星よりは、新しく見つかったその他の太陽系天体に近いと感じる天文学者が多かったというだけのことです。天文学に関係しない一般の人が冥王星を惑星扱いしても、全く問題はないはずです。

生命についても同様で、人間であるとか、犬猫であるとか、馬羊であるとか、鳥、虫、魚、木や草、といった、「生命」という言葉で表してきた、古典的生命とも呼べるものがまず周囲にあり、それに対して微生物であるとか、ウィルスであるとか、ロボットであるとか、コンピューターであるとか、従来の生命や非生命の基準では区別しきれない存在が知られるようになったため、生命という言葉の定義について考え直さなくてはならなくなったのだと思います。また、それは生物学者には重大でも、一般生活にはおよそ影響しません。そういう意味であまり興味を感じません。

ただ、日常言語で分類していたものを、厳密に定義したいと考えた人は過去に多く、現代でも通用する定義を残した初めての人物というと、ヤーノシュ・フォン=ノイマンを挙げることができると思います。学生時代に読んだ本のひとつで絶大な影響を受けた本に「ライフゲイムの宇宙」という本がありますが、その一節にフォン・ノイマンによる生命の定義が載っていました。フォン・ノイマンはすぐれた数学者だったので、おそらく数学的ないしは記号論理学的記述をしたと思われますが、その本では日常語によって書き下された定義が載っていました。

ネットから引用しようと思ったのですが、日本語では適当な資料が見当たらなかったため、やむなく英語ページからの引用となります。


(1) A living system encapsulates a complete description of itself.

(2) It avoids the paradox seemingly inherent in (1) by not trying to include a description of the description in the description.

(3) Instead, the description serves a dual role. It is a coded description of the rest of the system. At the same time, it is a sort of working model (which need not be decoded) of itself.

(4) Part of the system, a supervisory unit, "knows" about the dual role of the description and makes sure that the description is interpreted both ways during reproduction.

(5) Another part of the system, a universal constructor, can build any of a large class of objects—including the living system itself—provided that it is given the proper directions.

(6) Reproduction occurs when the supervisory system instructs the universal constructor to build a new copy of the system, including a description.

—The Recursive Universe, Chapter 11

最後にある"The Recursive Universe"というのは、「ライフゲイムの宇宙」の原題です。おそらく私が読んだのはこの部分だと思います。仕方がないので自力で訳すと、


(1) 生命システムは自分自身に関する完全な記述(設計図)を内包している。
A living system encapsulates a complete description of itself.

(2) (1)の条件に固有と思われるパラドックス、つまり「設計図の設計図」を設計図の中に含めようとすることはしない。
It avoids the paradox seemingly inherent in (1) by not trying to include a description of the description in the description.

(3) その代わりに、設計図は次の二つの役割を果たす。設計図はそれ以外のシステムの設計を符号化したものであると同時に、設計図自体がそれ自身の一種の実働モデルとして(復号化される必要なしに)振舞う。
Instead, the description serves a dual role. It is a coded description of the rest of the system. At the same time, it is a sort of working model (which need not be decoded) of itself.

(4) 管理ユニットとして働くシステムの一部分が、設計図の二つの役割について「知って」おり、自己増殖の際に設計図を両方の役割で翻訳する手段を持つ。
Part of the system, a supervisory unit, "knows" about the dual role of the description and makes sure that the description is interpreted both ways during reproduction.

(5) 生命システムのもうひとつの部分であるユニバーサル・コンストラクター(万能製造機)は、正しい指示を与えることによって、生命システム自身も含む、あらゆる大きな物体も作ることができる。
Another part of the system, a universal constructor, can build any of a large class of objects—including the living system itself—provided that it is given the proper directions.

(6) 生命システム内の管理システムがユニバーサル・コンストラクターに、設計図も含む生命システムのコピーを新しく製造するように指示したとき、自己増殖が起きる。
Reproduction occurs when the supervisory system instructs the universal constructor to build a new copy of the system, including a description.


あー、疲れた。

さて、これは何を言っているかというと、要はDNAと細胞の役割を論理的に矛盾しないように記述したものです。設計図とはもちろん遺伝子を含むDNAのことで、復号化とはDNAの塩基配列を転写RNAを通じてたんぱく質に変換することでしょう。また、ユニバーサル・コンストラクターとは、おそらく酵素を含む一連のタンパク質合成システムということになります。骨でも歯でも髪の毛でも爪でも皮膚でも胃袋でもなんでも基本的にDNAから送られたRNA情報により合成されるタンパク質の働きでできています。(材料はいろいろですが)

このように、人間の細胞と同じ機能を持った自己複製子が存在すれば、それはどのような物質的、あるいは論理的機構に載っていようが、生命とみなすことができるという主張です。この業績により、フォン・ノイマンを人工生命の父と呼ぶ人もいます。

私の個人的好みによれば、この生命システムが進化論的環境適応が可能になるよう、自己複製の際に確率的に誤りが発生するような機構を含めてもらうと、更に面白いような気がしますが、それは定義というより実装のレベルの話になるので、定義としてはフォン・ノイマンのもののほうがエレガントで良いでしょう。

さて、私の持論では、人間や動物や植物は上記の定義により、DNA、RNA、タンパク質などの炭素鎖を基本構造にした分子でできた下位システムに載った生命システムであると考えられます。また、これとは別に、私たち人間の意識は、神経細胞という下位システムに載ったミームという自己複製子を持つシステムであるとも考えています。しかしこのシステムはまだ不完全で、言語の登場により自己複製的なことができるようになりましたが、その際のエラーが大きすぎて生命システムの定義に合致するレベルには達していないように思います。

ここで少し生命システムを載せている重層構造を眺めてみます。ミームの話は一時忘れて、私たちの肉体を構成している原理を少し整理しておきます。比喩にネットワークのOSI階層モデルを挙げます。

OSIモデルでは、ネットワークの機能を7つの階層に分けています。一番下位の階層は物理層(Physical Layer)と呼ばれ、電磁気的な通信条件を規定しています。その上にはデータリンク層という階層があり、物理層とプロトコルを介してつながり、一段抽象的な通信動作を規定します。例えばエラー訂正やビットレートの選択、接続開始時のネゴシエーションなどを規定します。こうしてプロトコルを介してより抽象性の増した層を積み上げ、一番上にはアプリケーション層(Application Layer)と呼ばれる実用的な階層が載ります。ここではメールのやりとりであるとか、webページの参照など、高度なネットワーク機能を規定します。

同様に私たち地球型生命は、素粒子物理学で規定される素粒子の階層がまずあり、すべての生命はその物理法則に沿って生きていますが、素粒子物理学のルールをそのまま利用しているわけではありません。素粒子物理学にしたがって、陽子や中性子からなる原子核ができると、物理学上の4種類の相互作用のうち、「強い力」と「弱い力」と呼ばれる二つの相互作用は原子核の崩壊現象などを除き、外部に現れなくなります。さらに原子核にはその電荷に釣り合った電子が取り巻き、電気的に中性な原子ができます。

原子は電子をやり取りしてイオンを作ったり金属結晶を作ったり分子を作ったりしますが、これらの反応は原子核を取り巻く電子雲の状態だけでほぼ説明することができます。これは一般に「化学」と呼ばれる法則群で記述される階層であり、分解するとほぼ全ては量子電磁力学で統一することができます。重力は化学のスケールでは微小であり、ほとんど寄与しません。

素粒子物理学の階層があり、そこから限定的につながる化学の階層があり、また別の階層が載ります。空間的規模で行けば、電磁気力が限定的にしか作用せず重力が支配的になる天体運動の階層などが載りますが、生命の話に限定すると、DNA、RNA、そしてタンパク質を含む、炭素鎖を持つ分子団、一般的な言葉で言うと「有機物」の階層が載ります。

--

長くなったので一旦切ります。


安敦誌 : 生命に関する試論 (1)
安敦誌 : 生命に関する試論 (2)
安敦誌 : 生命に関する試論 (3)
安敦誌 : 生命に関する余談
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by antonin | 2006-11-18 12:37 | Trackback(1) | Comments(0)
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