by antonin
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科学と、工学というのは、やっていることは似ているのだけれども、方向が違う。どう違うのかはまた書く機会もあるだろうから、今日は科学の話をしよう。 「地球はなぜ丸いの?」 「高い所から低い所に重い物が落ちるからだよ」 「高い所から低い所に落ちるとなぜ丸くなるの?」 「それは、一番低いところがひとつしかないからだよ」 「ひとつしかないの?どこにあるの?」 「地球の真ん中にあるよ」 「なんで地球の真ん中が一番低いの?」 「地球のうち、陸地の上に人間が住んでいるけれど、陸地は地球のかたまりのうち一番外側にあって、その外側に空気が薄くかぶっているんだ。陸地は地球の色々なところにあって、それぞれに高いところと低いところがあるんだけど、遠く離れたところでは高い所と低い所の向きが変わるんだ。地球儀の右側では、右のほうが高いところで、左のほうが低いところ。地球儀の左側では、左のほうが高いところで右のほうが低いところ。上では上が、下では下が、高いところなんだ。それで、地球の全部で一番低い方向を指してみると、それはみんなひとつの点を指しているんだ。それが、地球の真ん中。それより低い所は無いんだ。」 「ふーん。それで、なんで丸くなるの?」 「一番低いところは地球の真ん中で、外側へ行くほど高いところになる。そうすると、丸くない地球があると、外側に飛び出ているものは、高いところにあるということになって、低いところに落ちようとする。低いところはどこかと言うと、地球の真中に近い、へこんだところだ。そうすると、飛び出ている部分がどんどんへこんだ部分へ落ちていって、それを繰り返しているうちに、最後には丸くなるんだ。」 「なんで?」 「高い所が崩れて、低い所が埋まると、どこも同じような高さになる。一番低い地球の真ん中から比べて、同じくらいの高さのところをつなぐと、まん丸になるんだ。地球のどこでも、だいたい同じ高さになった。だから、地球全体で見ると丸く見えるんだ。」 「へぇー。でも、なんで山とか海の底とか、でこぼこがあるの?まんまるじゃないの?」 「地球は、だいたい丸だけど、まん丸じゃないんだ。高い所から低い所に重い物が落ちるけど、一番低い所に落ちる前に引っかかって止まることがあるから、完全な丸にはならないんだ。それでも、本当なら地球の外側は全部空と海で囲まれて、陸なんか出来ないはずなんだ。それでも陸があるのには理由がある。」 「丸くなっていく途中だから?」 「そうだね。それもある。月が出来たのは、昔の地球に大きな隕石がぶつかったときのかけらが集まったものだといわれているんだ。地球から飛び出した分は月になって、地球に落ちてきた分から陸が出来たと考えている人もいる。でもそれだけではなくて、地面の奥深く、地球の中はとても熱くて、ときどき海の底から溶岩が噴き出してきて、低い所から高い所に石を押し上げている。たとえばハワイの島々はそうやって噴き出してきた溶岩で出来たらしいんだ。まだまだ地球をデコボコにする力が残っているんだ。」 「ふーん。そうなんだ。」 「面白いだろ?」 「まあまあね。」 というのが子供の科学で、詰まるところ、極めて具体的な事実の積み重ねと、体験で理解できる程度の抽象化、たとえば「高い/低い」といったものから始めて、少しずつ抽象的で、身近な体験を超えた事実を説明することになります。 ところが、大人の科学は違います。 「惑星が球状になる要因と条件について説明してください」 「はい。惑星は個体や液体が分子間力などの電磁気的な引力により固着して大きくなっていきますが、その質量が大きくなるにつれ、重力による引力の作用が支配的になります。このとき、惑星内部の質量が均一であると仮定すると、ガウスの法則から、逆二乗則に従う重力の作用は、惑星の質量の総和とその表面積に一定の関係を持ちます。このとき、重力によるポテンシャルエネルギーが最小となる形状は、惑星の重心に惑星の全質量と等しい質点を置いたときの表面ポテンシャルが均一となる形状、つまり球体になります」 「わかりました。それでは、地球をはじめとする既知の惑星が、完全な球体ではない球状になる点について説明してください」 「はい。例えば地球では、太陽系全体の持つ角運動量を保存するため、自転運動をしています。この運動による遠心力と、地球の質量による重力の和が地球表面での引力となるため、当ポテンシャル面は回転楕円体となります。また、地球はジオイドとして知られる、回転楕円体からの形状逸脱を持ちますが、これは惑星形成の過程や惑星内部に残存する熱などの影響に起因する、質量の不均一が地球の内部に生じており、そのため表面の等ポテンシャル面が厳密な回転楕円体に一致しないと考えられます」 「わかりました。惑星が完全な球体ではない要因を他に挙げることはできますか?」 「はい。一般に、惑星の形状が等ポテンシャル面に落ち着くとき、失われたポテンシャルエネルギーが運動エネルギーなどの保存可能なエネルギーに全て転換される場合には、そうした保存可能なエネルギーとポテンシャルエネルギーの間で振動が起こり、形状が一定しない可能性があります。しかしながら、一般に、ポテンシャルエネルギーの開放によって惑星の形状が等ポテンシャル面に落ち込むとき、そのエネルギーの一部は熱エネルギーに変わり、周囲の空間へ放出されます。これは惑星が球状の等ポテンシャル面に落ち着く要因になりますが、一方で等ポテンシャル面形状に至るまでに越えるべきエネルギー障壁、例えば岩石塊の破壊エネルギーなどを越えるエネルギーを失った場合には、局所的な最小ポテンシャル状態である、一時的な安定状態に陥る場合があり、月面の凹凸などはこうした要因の影響だと考えられます」 「では、惑星が等ポテンシャル面に等しい表面形状になる際に熱エネルギーを放出することと、惑星がほぼ球状で安定することの間の関係について、簡潔に説明できますか?」 「はい。まず、質量の大きい惑星では重力が支配的になり、ガウスの法則から等ポテンシャル面はほぼ球状になることが第一点です。次に、熱エネルギーが失われる開放系では、エネルギー転換はエントロピーの増大する不可逆過程となり、熱力学第二法則により、外部よりエネルギーを受けない限り、惑星は球状を維持します」 「質問は以上です。ありがとうございました」 この面接試験のような会話は素人の私が資料も見ずに書いたものなので、答えている学生らしき人物の言っている内容にどの程度の信憑性があるかは保証できませんが、とにかく、大人の科学では、こうした「エントロピー」だの「ポテンシャル」だのといった、抽象的な言葉を使って現象を説明します。 これはなにも、難しい言葉で他人を煙にまいたり、新人を選別してエリート社会を形成するための隠語を作っているというわけではありません。あくまで、具体的ではあるけれども、個々ばらばらな観測できる現象を、抽象的な言葉や、あるいは数式を使うことで、実は全く無関係と思われていたいくつかの現象が、同じひとつの言葉や数式で表すことができるから、そうした抽象化をするのです。 抽象化によって、多くの現象が、より少ないルールで説明できるので、人間の小さな脳味噌でも、より多くのことを理解できるようになります。これが科学の、特に理学の醍醐味です。物理学者などは、究極的にはひとつの式で、全宇宙の現象を説明できると考えて研究している人もいるようです。ただし、そうした抽象概念を理解するためには、それなりの訓練と素養が必要です。 純粋数学が科学であるのか微妙なところではありますが、少なくとも現代科学が数学の知識の上に成り立っていることは事実です。上の会話でも出てきた「エントロピー」という言葉は、コンピューターを使った情報通信の世界でも現れます。これは、通信理論の研究をしていた研究者と交流のあった有名な数学者、ジョン・フォン・ノイマンが、情報通信理論における統計的な情報量の定義式が、古典的な熱力学分野のエントロピーを表現するいくつかの数式のうち、ボルツマンが創始した統計熱力学的説明によるエントロピーの式と同じ形式をしている点を見抜き、情報理論の研究者に、情報量を「エントロピー」という言葉で表現することを勧めた、という説が残っています。 このように、全く関係のないと思われた分野が数式や抽象的な言葉で結ばれたとき、まだ研究が進んでいない分野に、もう研究しつくされた分野の研究成果を応用できる可能性が高くなり、研究のスピードを早めることが可能になります。より多くの法則を幅広く知ることが、科学の世界で抽象的な用語を使う理由です。科学者は、ひとつの分野に落ち込むために、業界の暗語を覚えているわけではありません。 科学の面白さの原点は、やはり観測できる現象の素晴らしさです。その楽しさを知っている人は、抽象的な言葉を操っても、必ずその成果が、観測できる、身の回りの世界に通じていることを意識しているはずです。これは、ひたすら努力によって単語や公式を暗記した人との差に現れると思います。 こうした差は、なにも科学に限ったことではなく、法律や、宗教、哲学などでも成り立つことだと思います。なぜ大人は抽象的な言葉を使うのか。子供を相手にしていると、そうしたことが見えてきて面白くなります。この面白さは、どうしたら子供に伝わるでしょうか。
by antonin
| 2007-06-05 06:59
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Comments(2)
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by
まこ
at 2007-06-05 23:53
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少し(だいぶ?)話は違うけど、わたしは昔よく月の地図を眺めていた頃があります。
ネーミングがなんだかいいのよね。 なにか、月の世界にかぐや姫がいそうな。
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antonin at 2007-06-07 05:34
>まこさま
コメントありがとうございます。 クレーターの一つひとつに名前が付いてるんだよね。 小学校の入学祝に、もう他界したおばあちゃんが送ってくれた地球儀に、月面儀も付いていて、よく眺めていました。 有名なものに、クレーターは小さいのに、飛沫が放射状に大きく伸びている「ティコ・ブラーエ」があります。 惑星の3法則を発見したヨハネス・ケプラーの先輩に当たる天文台長で、望遠鏡を使わずに極めて正確な惑星の航行データを残した人です。このデータを使って、ケプラーはほとんど観測をせずに惑星航行の法則を提唱しました。 クレーターのティコは、できた時期が比較的最近なんだと思います。それで飛び散ったチリの跡がまだ鮮明なのではないかと。クレーター以外でも「嵐の海」なんてネーミングもまたいいですね。
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