安敦誌


つまらない話など
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屁はなぜ臭いのか

屁は臭い。それはなぜか。

原理的に言うと、屁にはある種の有機化合物が含まれており、それは人間の嗅覚が特に高い感度を持つような分子構造をしているために、感知されやすい。それは哺乳類の中では比較的嗅覚が鈍感であるとされる人類でさえ、体積比で言えばppb、つまり十億分のいくつという割合で空気中に含まれる有機化合物でさえ判別可能なのだという。具体的には、窒素と硫黄を含んだ分子が特に臭い。

例えばアンモニアは哺乳類の尿に含まれる尿素が分解されてできる物質であり、これは窒素原子と水素原子でできている。尿素自体はほぼ無臭であり、同時に無毒である。一方のアンモニアは哺乳類の生体にとって有毒であり、同時に強い刺激臭がある。高濃度では刺激臭だが、低濃度では漠然と臭い匂いになる。尿の汚染が主である男性小用便所の悪臭はだいたいアンモニア臭が原因である。

アンモニア分子ではひとつの窒素原子に3個の水素原子が結合しているが、それがメチル基などのあまり質量の大きくないアルキル基で置換されると、そのアルキル基の数に応じて1級から3級のアミンになる。この3級アミンなどは生魚が腐ったような臭気となり、衣服などにも染み付いて非常に臭い。「生魚が腐ったような」と形容されるとおり、ある種のタンパク質が微生物によって分解されると、このアミン類分子が発生する。アミン自体も弱い毒性があるが、どちらかというと微生物による分解の過程で生じる副生物に毒性の強いものが含まれることが多い。

また、哺乳類の肉などが腐ると、メルカプタンなどの硫黄を含む低分子量有機化合物が生じる。これも臭い。身近なところでは、本来無臭である都市ガスに漏洩感知のための悪臭を付加するのに使われているのが、このメルカプタン類である。これも自然界においては出どころがタンパク質の腐敗分解であるので、窒素と硫黄の両方を含んだ有機化合物なども存在し、これは強烈に臭い。

そして、タンパク質ではなく糖類が微生物分解されると、アルコールやアルデヒドや脂肪酸などが得られる。微生物分解によって得られるアルコールで最も一般的なのはもちろんエタノールで、これが酸化するとアセトアルデヒドとなり、さらに酸化するとエタン酸、つまり酢酸となる。これも臭い。酢酸は窒素も硫黄も含まないが、それでも高濃度ではアンモニアに似た刺激臭が伴う。

脂肪酸類もまた糖や脂肪が微生物によって分解が進んだことを知らせる指標であり、酢酸そのものは無害であるとはいえ、そこには他の微生物由来毒物が混ざっている可能性も高い。だいたい、こういう腐敗毒性を生理的に知らせることを目的として臭覚というものが進化発達したと考えるのが合理的である。

屁は臭い。それはなぜか。それは、人間の排泄物である大便には有毒な代謝排出物の中に多量の微生物が繁殖しており、大腸壁しか直接の接触に耐えられないような毒性も持っている。そんな「毒物」である大便から立ち昇ってきた臭気が屁の正体である。これが臭くないわけがないのだ。

ただし、文明が発達した人間界では、毒性を持たずに特定の微生物のみを繁殖させて食物を分解させる醗酵という技術が進んできているから、本来は臭気に分類されるような脂肪酸やアミンやメルカプト、さらにはどれも全て合わせたような含硫黄アミノ酸などでさえも、それを「旨味」のサインとして受け取ることができるようになっている。たとえば酢の匂いであり、例えば納豆の匂いであり、例えばくさやの匂いである。

子供は本来こういう匂いを好まない。これが先天的な危険告知情報なのであるが、学習要素、つまりは慣れなのだけれども、うまい味と臭いにおいを同時に感じるという体験を繰り返すと、ついには臭いにおいが旨味を連想させるという感覚が生じる。これを指して大人の味覚とすることができるだろう。

だいたい似たようなことは味覚そのものにおいても生じていて、辛味、苦味、渋味などはどれも動植物由来の毒性を検知するための信号だったのだけれども、辛いが毒はない、あるいは苦いが毒はないというような食品に慣れ親しむに従い、先天的には嫌うべき辛味、苦味、渋味などがそれぞれ独特の旨味成分として解釈されるようになった。これもまた大人の味覚と言うべきだろう。子供が昔ながらの臭いトマトやニンジン、あるいは苦いピーマンなどを嫌うのは道理にかなった生理反応なのである。

大人とは、このように生理的危険感覚を積極的に無視することによって、その知覚世界を広げてきた生き物なのである。直感的には毒性を予感させる味わいなのだが、知恵を使ってよくよく調べてみれば、毒性を感じさせるような味わいの中にも、実は毒性を持たないものがあり、またそれに慣れきってしまうと、子供には知ることのできない深い味わいの世界というものが開けてくる。

裸の王様を見て、「王様は裸だ」と見たままを口にするのは子供の無粋なのであり、「おお、色艶といい、その風合いといい、実に見事なお召し物にございます」と言えるのが大人の知性というものなのである。そこに毒気があって死んでしまえば馬鹿であるが、毒気さえ無ければそれは大人だけの深い味わいを持つ世界なのである。苦味と渋味という有毒警報を感知しながら、その感覚に打ち勝って有毒か否かを知識と経験によって見極めるのが大人なのである。

屁は臭いのだが、それで「くっさーい」などと大騒ぎをするのは若い娘だけで十分だ。大人であれば、それが宿便のサインなのであるか、あるいは過敏性大腸症候群のサインなのか、あるいは急性食中毒のサインなのであるか、あるいは健康な乳酸菌類が順調に育っているサインなのかといった、そうしたものを読み取ろうと積極果敢に屁のにおいを嗅ぎに行かなくてはならない。それが成熟した大人の嗜みというものである。

とは言いながらも、腸内細菌の比率を言い当てようとして侃侃諤諤の議論をしながら、屁の匂いばかりを競い合って嗅いでいる大人というのもまた見苦しい。たまには花の香りでも嗅いで、甘いバニラアイスなどを食べてみてもいいだろう。養生の基本はなにごともほどほどに、である。
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by antonin | 2008-09-27 22:46 | Trackback | Comments(0)
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