安敦誌


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一匹狼の会

そういう言葉があって、これはジョークなのだという。この言葉をジョークとして笑える人というのは決して一匹狼的な性質を有していなくて、かなりうらやましく思う。

なぜこれがジョークになるのかというと、自己矛盾を孕んだパラドックスになっているからなのだという。しかしこれは非常に古典的なパラドックスなのであって、哲学者は笑えるかもしれないが、科学者が笑えるものではない。工学者なら泣き出してしまうかもしれない。

仮定1.「一匹狼は群れに馴染まない」
仮定2.「会とは群れである」
命題「一匹狼は会を作る」
命題は仮定と矛盾する。
結論「命題は偽である」

てなところか。これは、ウィトゲンシュタインなどからこちらの現代的な論理ではなく、アリストテレスやスコラ派が愛した古典論理の世界の話になっている。現代の論理学は哲学者の領分から理数学者の領分に移っていて、必ずしもこういう具合にはならない。

100個の部品を製造すると、1個の不良品が発生する場合がある。この製造プロセスで、100ロットの生産を繰り返した。すると、全体で30個の不良品が発生した。この30個を分類すると、うち20個でケース嵌合の不良が見られた。

何かおかしいだろうか。何もおかしくはないだろう。例を変えてみよう。

100人からなるグループがある。そのうちの1人だけが組織全体の方針と折り合いが付かずに飛び出した。そして100人からなるグループが100組織存在する。そのうち30のグループでは、組織の方針と折り合いが付かない人が1人ずつ飛び出した。その30人を集めると、うち20人は組織のあり方に共通した問題意識を持っており、新たなグループを作った。

何かおかしいだろうか。何もおかしくはないだろう。なぜだろうか。

一匹狼の会というものを現実的に考えてみれば、特に異常な感じはしない。しかしこれを古典論理で考えてみると、自己矛盾が検出される。なぜかといえば、古典論理が現実世界に比べて簡単に出来すぎているからだ。ただし、これは古典論理を批判しているのではない。道具というのは概ね、簡単であればあるほど優れていて応用が利くものなのだ。ただし道具というのは使いようなのであって、この鋭利な刃物で「一匹狼の会」という言葉を両断するのは、おそらく間違っている。

世の中には定性的な評価と定量的な評価というものがある。そして、定量的評価を簡単にして要点だけを切り出したものが定性的な評価であるとも言える。究極的には、この世の中には複雑極まる量的現象しか存在しないが、それでは人間の小さな頭ではいつまでかかっても世界を理解することができないので、仕方なしに問題を単純化する。科学とはそういうものである。

だから、「一匹狼の会は自己矛盾」などと笑える人があれば、その人は古典的な思考の中で生きている常識人なのだな、ということがわかる。これをわかってしまった現代的な人というのは、実はかなり不幸な存在なのではないかと、最近では考えるようになっている。「一匹狼の会は自己矛盾ですよね」などと表面上は笑いながら、羊の群れの中で窮屈に暮らしている狼などもいるのではないかと、ひそかに想像している。
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by antonin | 2008-10-17 00:36 | Trackback | Comments(0)
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