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楢山節考の文庫本を買って読んでみたりした。この小説自体は過去に一度読んだことがあり、大筋は知っていたが、今になって改めて読み返してみると、やはり心に迫るものがある。特に胸に迫るのが、子に自分を山へ捨てろと迫る母親が子を思う気持ち、嫌だと涙を流しつつ母を背負い、山へ行く日に雪が降ったなぁと感じ入る息子の気持ち、憎まれ口を叩きつつも祖母を思う孫の気持ち、それぞれに嫌味を言いながらも義母を思う嫁の気持ちなどで、それらがとても尊く感じられた。 どんな悪人に見えても、結局のところ人の心は清いというのが、冷酷ではあるが現実なのだろう。世に悪事は尽きないが、脳波を取っても平然と悪事を成す珍しい例を除けば、ほとんど全ての悪人はその性根において善人なのだろう。ただ、平均よりいくらか弱い心を持っているという、ただそれだけなのだろう。そして、自分の悪には目をつぶるようにできているが、自分の弱さはよく見える。そういう自分も悪人の最たるものなのだろう。それを論理的には知ることができるのだが、実感としては感じ取ることができない。こうしてどんどんと悪人になっていくのだろう。「だから、あの時に死なせておけば善かったものを」と、憎まれ口を叩きながら世を去っていくのかもしれない。弱い男の最期とは、だいたい憎まれて消えると決まっている。たとえ、死後懐かしまれることがあっても。 楢山節考の文庫本の巻頭に、「月のアペニン山」という短編小説が併載されていた。この作品の最後には「サスペンスの練習に」というメモ書きが添えられているのだが、おそらく正常な読者は、主人公が統合失調症であったという結末に戦慄するのだろう。だが、私は戦慄しなかった。主人公の不安と、その妻の泣く姿、妻の友人たちの、困惑しながらも温かく妻を支える姿に感動を覚えた。主人公の深い不安に共感を覚え、温かい余韻が残った。私の最期は、この主人公のようになっていくのかもしれないと思い始めている。そのように客観的に自分を眺めているのは、正常なのか異常なのか、もはや自分では判断が付かなくなっている。ただ判別できるのは、ヨメがときどき涙を流しているという事実だけだ。 空を飛びたいと願う人の歴史は、ついに飛行機を作り出した。人に働かせたいと願う人と働きたくないと願う人の歴史は、ついに工作機械を作り出した。そして、人が自分に期待する像と、自分が認識する自分の像の分裂を持つ人の歴史が、向神経薬という解決法を見出したのだろう。ある人は弱いが、社会は全ての人に強さを要求する。すると、精神は分裂することでその要求を満たそうとする。ただ、それだけのことだ。 今はいい薬があるらしい。今はまだその手の薬を必要としないが、仮にそれが必要となったとしても、あと30年くらいは生きていけるだろう。「この人を見よ」などと叫ばなくてもいい。ただ、薬を飲めばいいのだ。良い時代になったものだ。
by antonin
| 2009-07-16 00:48
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Comments(1)
Commented
by
ぶどう
at 2018-11-09 13:24
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はじめまして。
昨日偶然この文庫のアペニン山を読んで世間の感想が知りたく検索したところ、こちらがヒットしました。 主人公が統合失調症?という事に全く気がつきませんでしたがどの辺りでそう判断されたのかお尋ねしたく思います。(読み返してもあまりピンと来ません) 09年の投稿で記憶も薄らいでいるとは思いますが お手元にあった場合、ご参照くださると幸いです。
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