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ホワイトノイズというものがある。これを適当な振幅でスピーカーに通してやると、ザーという雑音になる。アナログテレビの復号回路に突っ込んでやると、砂嵐のスノーノイズになる。そしてこのホワイトノイズをフーリエ変換すると、あらゆる周波数に広く均一にレベルが分散した状態として表される。なぜ「白色雑音」と呼ぶのかというと、可視光域で広く均一にレベルが分散した光線を人間の目で見ると、色として白く見えるからだ。 全ての周波数成分を含んだ信号にはいくつか種類があって、ホワイトノイズの他にインパルスというものがある。ある瞬間だけ無限に高いレベルに達して、それ以外は全てゼロレベルにあるような波形をインパルスという。数学的にはデルタ関数というもので表現される。デルタ関数を積分するとステップ関数になる。逆にいえばステップ関数を微分するとインパルスが現れる。 このインパルスという信号を使うと、アナログ的なシステム、つまり量的な信号が伝達していく回路の応答特性(伝達関数)を知ることができる。システムの伝達関数がわかると、連続的な変化に対してシステムがどのように反応していくかということを計算することができる。 現実世界では時間幅がゼロでレベルが無限大という数学的に純粋なインパルスはないけれども、近似的にそれに相当するものはある。例えば「パンッ」と手を叩くと、インパルス的な音波が出る。コンサートホールというのはひとつの音響装置となっていて、ホールの設計者はステージ上での演奏が観客席で心地良い響きになるよう、細心の注意を払って設計する。そして完成したホールの音響特性を確認するために、ステージに立ってパンッと手を叩くという。 すると手を叩いた直後に乾いた音がステージ周辺から反響し、次にホールの壁面を伝いながら天井や後壁面に反射し、次第に減衰していく。このインパルス音が時間経過とともに変化していく様子を、ステージ上や客席のいろいろな位置で聞いていく。そうすることでホール全体の音響特性が確認でき、経験豊かな設計者はそれによって実際に演奏したときの音響を想像することができるという。 人間というのは、自分が置かれている状況の絶対的なレベルよりも、その変化に敏感な生き物である。数学的に言うと、人間は微分する生き物だと言える。だから、人間の精神が変化にどのように反応するかという応答特性を知ろうとすれば、インパルスよりもステップ関数的な、つまり一瞬で急激に変化して元に戻らないような変化を与えた場合の方がわかりやすい。 宝くじに当たってある日突然に大金を手にするとか、親しい人を交通事故で突然失うとか、そういうものがステップ関数的な変化になる。そういった急激な変化が起こると、人間はその衝撃の直後から数年間にわたって様々な反応を見せる。 人間の心理というのは複雑で非線形のシステムだから、単純にインパルス応答によって分析可能とは言えず、この分析は比喩的なものになる。けれどもそういう突然の変化に対する反応が、その人の性格をあからさまにするということは、感覚的にも十分理解できるだろう。あえてインパルス応答のアナロジーを展開すると、衝撃の直後に示す反応は短時間の変化に対する反応を、そして時間が経過していくにつれて、ゆっくりとした変化に対する反応を反映したものということになる。 突然の衝撃に対して1時間以内に現れる反応は、その人が仕事上の問題を1時間程度のスパンでどのように解決するかという性質とよく対応する。また1日後に現れる反応は前日の仕事に対する対処の仕方を、1ヶ月後に現れる反応は1ヶ月にわたって問題となる慢性的な仕事への対処のスタイルを良く反映する。そして衝撃から1年後の反応には、大きな仕事の流れを1年のスパンでどう取り扱っていくのかという長期的な問題解決のあり方と共通したものが作用している。 そして、人間の精神という複雑なものに対してインパルス応答というアナロジーを許すなら、国家や社会という複雑なシステムにも似たようなことができる。一番印象深いのは"911"という衝撃だろう。わずか1日の衝撃的な事件がアメリカ社会に引き起こした反応の経緯は、「アメリカ合衆国」というシステムのインパルス応答として見るのに都合がいい。 まず最初の突撃の直後に反応したのは、ニューヨーク市警とニューヨーク市消防局だった。このふたつの自治組織が、通常の防災活動を迅速かつ果敢に繰り広げた。次いでジュリアーニ・ニューヨーク市長が自治体レベルで非常事態体制を敷き、組織を機動的に運用した。また同時に、航空管制機構が全民間機に着陸指示を出し、空軍が国家の主要施設付近を警戒する。そしてある程度信頼できる情報が確認できた時点で、大統領直轄で国家レベルの非常事態体制が確立する。ここまでがアメリカ社会が持つ当日中の問題解決能力を示している。 翌日以降はマスコミによってありとあらゆる関連情報が流され、国民が非常事態の正体を知る。これによって国民はまず恐怖の感情に支配され、次いでそれが怒りになり、翌月にはイスラム過激派への恨みへと変化していく。この国民感情を受けて、国民の支配者であり代弁者である大統領は、対イスラム組織との戦争へと走る。そして「衝撃」から約1年半後、アメリカ合衆国はイラク戦争に突入する。 イラクの「紛争状態」はゲリラ活動などの泥沼化もあって現在も続いているが、近代的な戦争戦術としてはブッシュ大統領が「大規模戦闘終結宣言」を発した前後で完了している。国家間の戦争としては2ヶ月ほどで終了した。ここまでがアメリカ社会が本格的な戦争をする場合の反応時間を反映している。 その後も世界各地で継続して散発するテロや、ハリケーン「カトリーナ」というセカンドインパクトの影響もあって、次第に純粋な"911"のインパルス応答とは言えなくなってくる。けれども2008年11月には、オバマ大統領という異文化融合の象徴のような大統領を、アメリカ国民は選出している。ここまでの期間で、「自治体組織の緊急対応」「愛国的な世論の沸騰」「国家組織の戦争行動」「戦争に倦厭する世論の蔓延」「融和への期待」という時系列応答が次々に見られた。 あくまで比喩的なものではあるけれども、西新宿の高層ビルに旅客機が突入してビルが崩壊した場合の状況などを予想してみると、現実にアメリカで起こった反応とはまた違った応答を、日本国というシステムが見せるのではないかという予想は確かにできる。御巣鷹山に満席搭乗のジャンボ機が墜落した直後から数年の動きなどを見ると、自民党政権下の日本国というシステムが持っていた、ネットリとした応答特性をある程度経験済みでもある。 同じように中華人民共和国の特性を知りたければ、天安門事件や四川省大地震などの「衝撃」がどのように時系列の反応を引き起こしたかを注意してみることで、だいたいの見当がつく。これもアメリカ合衆国の応答とも日本国の応答とも異なるはずで、その特性に国家という複雑なシステムのマクロな特性がかなり露骨に現れているのではないかという気がする。 現役国会議員の逮捕に対する反応などの小さなインパルス刺激から、現在の日本国の応答特性がなんとなくわかってくる。そういうネットリと粘るように反応する日本国の応答特性は、「失われた10年」や「少子高齢化」などという長いスパンの変化にどう対応していくのか。単純に予想すると、茹で蛙的に行き着くところまで行き着くまでは、眼前の状況に対する驚異的な局所対処能力でいつものように乗り切っていくのだろう。 最終的に「失われた半世紀」となるあたりまでは、決定的に破綻せずにこのままズルズルと推移していくような気がしている。それが良いことなのか悪いことなのかまでは、なんとも言えない。
by antonin
| 2010-03-12 22:27
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