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メソポタミア地方で発見された遺物が電池であったかもしれないという説があるが、久しぶりにネットで調べてみると、意外にも否定的な扱いを受けている。これでは面白くないということで、肯定的な情報をいろいろ集めてみた。古代に電池が発明されていたと考えたほうが楽しいじゃないか。そう簡単に否定してしまってはもったいない。 古代の遺構から電池のような物体が発見されたという話は知っていたが、それ以上の詳しい情報を知らなかった。ところが、「めっき」の語源を調べていたら偶然にこの「古代電池」の情報にたどり着いた。最近はネットサーフィンという言葉もすっかり使われなくなったが、そういうようなリンクをたどる旅があったので、その経路を再現しておく。 めっき - Wikipedia ついでに「めっき」の語源説のひとつが挙がっていたので引用。 古くは滅金などといい、水銀に金を入れるとアマルガムとなって溶けて消滅する現象から生まれた和製漢語。 バグダッド電池 - Wikipedia バグダッドの古代電池 - Skeptic's Wiki バグダッド電池: 世界ふしぎ探検 このあたりの記述を読むと、この古代遺物の電池説は「現在では否定的な見方が主流」というような感じで書かれているのだが、どうも納得がいかない。 本当に呪力を求めるような巻物を収めた金属管をハンダ付けやアスファルト封止で保護しているとするならば、当然その巻物自体が高い確率で保存されていなくてはならない。しかしパピルス紙のような比較的保存性の高い物体が、これだけ厳重に守られた構造の中にありながら、土中の水分などで簡単に腐食してしまったという説明は苦しい。もちろん、何か呪術的な意味があって、故意に腐食しやすいような条件に置かれた巻物を封入したという可能性も否定はできないが、そのような仮定は電池説以上に無理があるものだろう。 異種金属を絶縁性のアスファルトで支持している構造にしても、内部に腐食の跡が見られる点にしても、電池説の裏づけとしては非常に強力なものであり、この程度の反証で電池説を否定してしまうのはあまりにももったいない。上記リンク先では、金属管内部からパピルスの繊維痕が見つかったことと、紙と青銅のロール状遺物が見つかった点をもって、電池説を否定する材料としているが、ある程度電気化学の知識がある立場からすると、これは電池説を否定する材料というよりも、むしろ電池説を補強する材料として読める。 もちろん、電池説を提唱したW. ケーニヒが考古学の専門家ではなく、そのためバグダッドの異物の年代推定が不正確で、実際にはパルティア時代ではなくササン朝時代の遺物である可能性が高いだろうという点には異論がない。しかし、これらの同定を下した「考古学の専門家」が、電池の構造や原理について専門的な知識を持っているとも考えにくい。以下、そうした面からバグダッド遺物の「電池説」を擁護するような周辺情報を並べていこう。 まず、日常生活で使う使い捨ての電池を「乾電池」と呼ぶが、どうして「乾」という字が付くのかといえば、乾電池が発明される以前の電池というのは、全て電解液の中に電極を浸した湿式電池だったことに由来する。電池は電極と電解質の組み合わせでできているが、湿式電池では電解質が電解液という液体になっている。それでは一般に酸性や毒性が強い傾向にある電解液が振動でこぼれてしまったりして使い勝手が悪いので、電解液をゼリー状に固めて流れ出にくいように工夫したものが乾電池と呼ばれるようになった。 電解液を保持するもうひとつの方法に、吸水性の固体に吸わせるという方法がある。この方法の利点は、電池の両電極間に固体を挟むことになるので、両電極が直接接触して電気的に短絡するのを防止することができるというところにもある。現在ではこのような絶縁性の電解液吸収材料をセパレータと呼び、多くの実用電池で利用されている。 多孔質セラミックのような硬いセパレータもあれば、紙のような薄くて柔軟なセパレータもある。電極の種類によっては、電流密度、つまり単位面積あたりの酸化還元反応の速度をあまり高めると、電池としての特性が低下してしまうようなものがあり、そういう場合には電極とセパレータをフィルム状にして多数重ねることで、電極の表面積を稼いで実用的な特性を出すようなものがある。身近なところではニッケル水素電池がそのような構造をしている。そして面白いことに、乾電池と互換性のある円筒状ニッケル水素電池で一般的な内部構造とは、電極とセパレータを巻物のように心棒に巻き付けた形状なのである。 電池セパレータとは? | 日本バイリーン(株) そして、そのような用途で使用されるセパレータの中には、繊維こそ通常の木質繊維とは異なるものの、いわゆる「紙」が使われているものが存在する。 製品情報【電池用セパレータ】 ニッポン高度紙工業【会社概要】 現代でも紙というのは電池材料として非常に高い有効性のある素材のひとつであり、ましてや古代に電池の性能を高める用途には必須材料と考えてもいいものだったのではないかと思える。現代のような化学面での技術があれば、多様な材料の中から高い電流密度を得られるような電池材料の組み合わせを試すことも難しくはない。しかし古代の素朴な電池であれば、材料の工夫によって電流密度を高めるよりも、構造の工夫によって電極と電解質の界面表面積を増大し、トータルの取り出し電流を高めるような工夫のほうが容易だったと考えられる。 紙と青銅を巻いたようなものも発見されているようだが、単に呪文を書いた紙を収めるだけなら青銅の裏張りなど必要なく、むしろ青銅製の電極と電解液を含浸させたパピルス紙セパレーターを、集電材としての鉄心に巻きつけた構造と考えたほうが自然ということになる。ただし、電極材料としては青銅のような合金材料よりは純銅製の電極のほうが適切なので、青銅が巻かれていたというのはやや具合が悪い。しかし、製造当時は銅箔とスズ箔が紙セパレータを挟んだ対向構造になっていて、歴史的時間のうちにアノード材のスズが完全に溶出し、さらに電解液の喪失に伴ってカソード材の銅箔の表面上に析出したため、化学分析の結果として青銅(銅とスズの合金)の一種と判定されたのかもしれない。 電気化学 電池の理論 そうなるとアスファルトのほうも説明が容易になる。アスファルトには正極と負極間の電気的な絶縁を維持しながら、同時に正極缶の中に浮かべるように負極芯を保持するパテの役割も持ち、電解液の漏出や蒸発を防ぐ気密材料としても働く。疎水性なので電解液への不要なイオンの溶出も少なく、いろいろと利点が多い。電極表面での酸化還元反応は、電解液中のイオン輸送と外部回路を通じた自由電子の輸送で行われるので、空気を遮断して酸素供給を断つと電極反応が止まるという原理がむしろ理解できない。ひょっとすると「酸化反応」という語感から来る誤解なのかもしれない。 酸化還元反応 - Wikipedia それでも、仮に古代の電池が存在したとして、装飾用のめっき用途に使われていたという仮説には少々無理があるかもしれない。電解めっきの技法を用いて装飾用のめっきを施すには、それほど高い電圧は必要ないのに対し、流す総電荷(電流と通電時間の積に比例)はかなり大きなものが必要になる。そのためには、めっき対象の表面積の何倍にもなる大型の電池が必要になったはずで、実際に出土したような小型の装置では不十分である可能性が高い。 ただし逆に考えれば、めっき対象の面積が微小であれば十分実用になったともいえる。めっき対象に絶縁性の材料で模様を描いておけば、塗り残した通電部分にのみめっきを乗せることが可能になるので、工芸細工的にもメリットは十分にある。銀表面に透明樹脂で微細な模様を描き、その後にこの電池を使って金メッキを施せば、かなり細密な金銀模様が描けただろう。また立体的に入り組んでいるためにアマルガムめっきが難しいような部分でも、電解めっきならめっき液と接触する部分には均一に金属を乗せることができる。 考古学者が否定した電池説というのは、単純なめっき用途という部分まで含めた仮説であって、得られた電気の用途を幅広く考えれば、出土品が電池であるという可能性まで否定する必要はないように思える。どうもこの手の話題に飛びつく人が「オーパーツ」をありがたがるオカルト系の人々ということで、反動的に「と学会」系の傾向を持つ人々から目の敵にされているらしく、そのために国内では否定的な見解が流布しているのだろう。しかし、そのまま過去の話題として葬り去るには惜しい、優れた仮説のように思う。 時代推定の正確さがどの程度であるにせよ、当時から製鉄やガラス製造を実現していた文明地域での出土物であるので、古い時代のものだからといって当時の技術者の力量をあまり低く見積もっても判断を誤るように思う。バグダッド電池はやっぱり電池であった、という意見に一票入れて終わりとしたい。 最後になるが、次に挙げる冷静な考察を大いに参考にさせていただいたことをここに表明しておく。 「懐疑論者の雑談 懐疑論者の祈り」より「バグダットの電池」
by antonin
| 2011-04-24 01:13
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