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英和辞典を引いてみると、informationという語の語源はinformatioというラテン語とある。それ以上の説明はない。で、動詞型のinformの項を見ると、「in-(中に)+form(形作る)=心・頭の中に形作る」とあって、informalのような「in(非…)+formal(公式の)」という語源説とは別の説明になっている。そうなのか。英語の語源説の研究者もバカじゃないから間違いはないんだろうが、なんとなく腑に落ちない。 人に告げる言葉の内容、今で言う「情報」をinformatioと表現しようと考えたのは、実はラテン語圏の人ではなくて、都市国家時代のローマが文化的な師と仰いだギリシア語の中に既にあった単語を、ラテン語に直訳したようなものだったのではないか。そんなことを考えているのだけれど、証拠がない。古代ギリシャ語と英語のネット辞典を頼りに、informationに相当する古代ギリシア語を探してみると、aggeliaという単語が出てくる。逆引きし直すとmessageの意味だとあるので、人に告げる言葉の内容を指すものとして、ラテン語のinformatioと同じようなものと見ていいだろう。 Ancient Greek Dictionary Online Translation LEXILOGOS >> Woodhouse's English-Greek Dictionary Page Image atomosはa-tomosで、非分割の意味だといわれるように、ギリシア語で接頭辞のa-はin-formalのin-と同じ否定の意味があるのだが、aggeliaからa-を外したgeliaに類する単語で「形」という意味を持つものがあるかと調べてみると、そういうものが出てこない。「形」というと、eidosとかideaとかmorpheとかのよく目にする単語が出てきて、ガンマで始まる単語は見つからなかった。aggeliaというギリシア語をinformatioというラテン語に「直訳」したとは考えにくい。 ちなみに、aggeliaを伝える人、つまりメッセンジャーをanggelosと呼び、これが後にキリスト教で言うところの天使(angel)の語源になったらしい。エヴァンゲリオン(福音)という単語も、anggellioという語幹にev-(良い)という接頭辞を付けたもので、良い知らせという意味らしい。gelosというと「笑い」になってしまうので、anggelosが「笑えない話をする人」とかいう語源を持つとすると面倒な話になる。そんなことはないんだろうけど。 aggeliaという単語に「非形」の意味が無いとすると、informatioという単語はラテン語圏の人が独自に考えたということになる。in-という接頭辞が否定ではなく「中へ」という意味だとすると、in-formの対義語としてex-formatioみたいな意味の単語が自然に派生したのでないか。で、調べてみると、確かにexformationという単語は出てくるのだが、「会話に必須だが、明確に意識されない知識の体系」とかいう近代哲学者の造語っぽい単語が出てくるだけで、ラテン語に起源を持つような古い単語は出てこない。 ちなみに、現代英語ではinformationというのは情報、お知らせ、というような意味にしか取れなくなっているので、「無形重要文化財」とか「無形資産」とかいう場合には、intangibleという単語を使っている。これもラテン語に起源のある語らしいのだが、intangibilis(触れることのできない)というのが語源らしい。対義語としてのtangible「触れることのできる」「有形の」という単語もある。 tangには「味」とか「におい」という意味もあり、intangibleも源流のある段階では「味わえない」とか「嗅げない」とかいう意味があったのかもしれない。まあ英単語のtangの方はtongueと同源であり、こちらはラテン語ではなく純ゲルマン系の古英語が起源らしいから、これはあんまりもっともらしい説とはいえない。 で、informationが「非形」という意味だとすると、眼が受ける色に対立する空という意味として適切なのだけれど、「中に形作る」だと具合が悪くなる。一方のintangibleは「非可触」という意味なので、身が受ける触に対立する空として、まあ妥当ということになる。 空の元になったサンスクリット語は数字のゼロと同じ意味のシューニャという語で、これは空っぽとか泡とか、そういうような意味だったらしい。ウパニシャッドとかの話を聞きかじると、ある限られた空間そのもの、あるいは形から物質的な要素を取り除いて残ったもの、みたいな表現が出てきて、これは古来インドでは定番の哲学ネタだったのだろう。 「ディラックの海」の仮説が失敗に終わって以来、真空がなぜ寸法(dimension)を持っているのかという話題はタブーに近い扱いを受けているけれども、そういうあたりを論じることができるような時代になると、空とか色とか、そういう思考訓練をしたことがある人には幾らかの有利があるような予感がある。真空中には色は何もないのだけれど、空がぎっしりと詰まっていて、そこにガンマ線なんかを打ち込むと、ときどき電子と陽電子の対が生成したりする。反対の電荷を持った対は電磁気力によって互いに引かれ合って衝突し、対消滅して再び質量のない光子に戻る。色即是空、空即是色。 因が独立変数、果が従属変数とすると、縁は関数(function)になる。過去の情報が因であり、物理法則という縁を経て、現在の色を作る。現在の色は再び因となって、未来の果を生む。その再帰演算により生成される情報の移ろいが物理現象であり、物理現象の持つ局所情報の一部がそれ自身を主観的に認識しているのが人間の意識(五蘊)ということになる。 吉村先生の影響で、考古学というと昔の人の発想をなんでも呪術に結びつける印象があるけれども、現代人だって呪術を否定できずに生理的に信じる人がたくさんいるのと同様に、古代にあっても奇跡や神を比喩的な用法以上には信じていない冷徹な人は一定数いた、というのが正しいのではないかと思う。エジプトの神官の中にさえ、というより、神官ができるような人のほうがむしろ、そういう発想法に接する機会は多かったのではないかと思う。それで、イクナートンのような一神教の狂信家を官僚的に追放したのだろう。 「報せ」に "information" という語を作って当てた人がどんなことを考えていたのか、興味はあるが、今となっては決して知ることはできないのだろう。
by antonin
| 2013-06-16 19:45
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