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ブラック・スワンの上巻を読み終えて下巻に入ったが、どうも面白くない。日本語で読んでいるのだが、いまひとつ翻訳が信用できない。2006年脱稿、2009年翻訳出版の古典を図書館で借りてきて文句を言う身分でもなく、原書の発行に際して15ヶ月の遅れが生じたという高度な書籍を僅かな期間で翻訳完了した偉業に疑う余地はないのだが、それでも日本語で書かれた内容には信用できない部分が多々ある。初版初刷なので仕方がないが、改版はないので今もそれほど大きな改定はなされていないのだろう。原書で読めと言われても困る分量なのでどうしようもない。 下巻の冒頭でも、二体問題では解析的に安定だが三体問題では不安定になるというポアンカレの指摘が、三体問題では安定だが四体問題では不安定になるという意味の内容に訳出されている。万有引力の法則で運動する太陽と惑星の二者関係であれば軌道は安定するが、そこにもう一つの天体が加わるとカオティックな三体問題になる。それが訳書では、太陽系に2個の惑星しかないなら安定で、そこに彗星が加わると三体問題になるとある。原書が間違っているか、訳が間違っているかのどちらかだ。 ポアンカレに心酔しているという著者がそんな初歩的な間違いを犯したとも考えにくいので、訳者と訳編者にとって物理学があまり親しくない分野だったのだと思う。おそらく、「太陽系に惑星が二つしかなく」というのは「系に太陽と惑星の二つしかなく」という意味なのだと思う。「二つの質点からなるシステム」という予備知識がないと訳しにくい部分ではある。話の大筋には影響がないのだが、こういう、読んでいて不安になる文章が定期的に表れる。 自分には信念があっても、周りからの評価が長く得られないときに自己評価を保ち続けるのは難しく、そうしているうちにコルチゾールに海馬がやられて記憶力が落ちて滅入る、という話が半分フィクションとなって上巻に一節挟まれていたのだが、その部分は心に染みた。それ以外の、実践に縁遠い統計学者や経済学者への苦言の羅列は、繰り言のようでくどい。これも海馬に損傷を受けた後遺症なのか。あるいは「ブルックリン的」な英文に対する和訳文体に胸焼けを起こしただけなのか。 下巻では正気を取り戻したのか、理論と実践の具体的なズレを例証するような内容が増えてきて、少しずつ興味深い内容にはなってきている。補間式によるデータ欠落部の内挿や、代表値の値域における近似関係式の導出にはそれほど大きな間違いは起こりにくいが、その数式に依った外挿はたいてい失敗するというのは、実験科学を経験した人なら身にしみてわかる話だと思う。これが、教科書で習った天下りの数式しか知らない人にはなかなか通じない。内挿と外挿の信頼度は天と地ほども違う。そのわかりやすい例として、同じ数式が描くグラフでも値域を変えると様相が全く違ったものになるという、私もここで何度か書こうとしていた話が本書の下巻に出ていた。私と同じような苛立ちを著者も持っていたのだろう。 経済の専門家を批判する本書の翻訳を、経済の専門家に依頼したのはどういう意地悪なんだという気はするが、当時は「経済分野のベストセラーをいち早く翻訳せよ」という指令しかなかったのだろうから、仕方がなかった面もあるのだろう。誠実になされた仕事を腐すのは良くない。仕事と生活の合間に原書でこういう本を読めない自分を呪いつつ、母国語でこの本を読める幸せに感謝したい。
by antonin
| 2017-09-11 01:34
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