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Wikipediaなんかを読んでいると、結構な頻度で「メルクマール」という単語を目にする。だが、この単語の意味がさっぱりわからない。調べてみても、「目印。指標。」とかいうそっけない説明しか出てこない。多少親切な説明でもこの程度だ。 メルクマールとは ~ exBuzzwords用語解説 Buzzwords用語解説というあたり皮肉が利いていて気持ちいいが、やはり意味がわからない。メルクマールという日本語は"Merkmal"というドイツ語から来ていて、英語で言う"milestone"的な意味で使われているような感じが伝わってはくるのだけれども、"milestone"と"Merkmal"で検索に掛けてみても、あまりいい具合の結果が出てこない。どうやらドイツ人はMerkmalという単語を一里塚というような意味で使ってはいないようだ。 どこにもズバリの意味は書かれていないのだが、色々なページを読み進めていくうちに、日本語としての「メルクマール」にはいくつかの意味が含まれていることがわかった。そのうちのひとつは上記にあるような「一里塚」という使い方だ。一定の到達点を迎えた、というような意味でも使われるようだし、変化がある臨界点に達して、そこから先は坂を転がるように変化が進んでいくという、転換点を指すような意味合いでも使われるようだ。 「K/T境界は中生代と新生代を識別する重要なメルクマールである」みたいな表現に使えるらしい。もっとも、「メルクマール」という言葉自体が人文系の香り漂う用語ではあるので、あまりこういった地質学分野の文章で使われることはないだろう。近代と現代の境界だとか、神経症と精神病の境界だとか、そういう曖昧なものの区別の基準を、少し大袈裟に表現するといった場面で使われているようだ。 もうひとつの意味は、比較的ドイツ語の一般用語に近く、また辞書的な意味にも近いもので、「指標」というもの。あるもの全体を直接に観察するのではなくて、何か代表的なわかりやすいものを観察することで全体の傾向がとらえられるとき、そのわかりやすいものを指して「メルクマール」と呼ぶようだ。 「フェノールフタレインの発色は溶液のアルカリ性を知るための良いメルクマールである」というように使えるが、例によってこんな理工系の文章にメルクマールという言葉は登場しないので、「人気のバロメータ」というような感じに、「投票率がどこまで上昇するかが、人々の政治への期待に対するメルクマールとなるだろう」というように使われるようだ。ちなみに「バロメータ」というのは気圧計です。天気予報の良い参考になります。 ドイツ人は今もこの用法で"Merkmal"という単語を使っているようで、例えば蹄が割れているというのは、ある動物が偶蹄目に入るためのMerkmalであるというような使い方をするらしい。最近の分類学は遺伝子ベースなので、Merkmalもゲノム配列なんかに移っているんだろうな。 また少し「一里塚」に戻るような意味合いとして、「目標」とか「道標(みちしるべ)」というような意味合いでも使われる場合があるようだ。ちょっと先のほうにドカンとメルクマールが立っていて、人々がそれを目指してぞろぞろと行進していくようなイメージになるらしい。もちろん「東京タワーをメルクマールとして直進してください」というような、そのままの意味で使われることはなく、「MacintoshはパーソナルGUIシステムの進むべき道を示す偉大なメルクマールとなった」というような比喩的な使われ方をするほうが多いようだ。 最後に、日本語としての「メルクマール」にはもうひとつ重要な意味があって、それは哲学分野の学術用語らしいのだけれども、これは「概念」とか「属性」というような、それでいて普通の意味とはちょっと違うような用語らしい。普通に「概念」という意味にはちゃんと"Begriff"というドイツ語の名詞があるのだけれども、哲学者というのは普通の人が気にも留めないような微妙な意味の違いを研究しているから、単語がひとつでは足りなくて"Merkmal"という名詞を持ち出したらしい。 パターン認識における「特徴」という意味合いで、ドイツの情報科学や認知科学の人たちは今でもこの用語を使っているらしいのだけれども、これはおそらくこちらの哲学用語のほうから派生しているのだろう。現代の日本語を見回すと、こちらのほうの意味で「メルクマール」という単語を使っている文章というのは、少なくとも一般の人が使う言い回しの中ではあまり見かけない。西洋哲学なんかを専門に学んでいる人はこちらの意味しか知らなかったりして、一般の人が使う「メルクマール」の用法に対して違和感を持っているようだ。 結局のところ、日常ときどき目や耳に入る「メルクマール」という単語は、英語で言うところの"mark"と非常に近い意味を持っているらしい。詳しい訳が載っている英和辞典でmarkという単語を引くと驚くほど多くの意味が並んでいて、そのうちのいくつかは最初のほうに述べたメルクマールの意味に近い。これを日本語で「マーク」と言ってしまうと普通すぎる感じがして良くないので、あえて難しげなドイツ語でメルクマールと言ったりするのだろう。ペダンチックな感じを醸しだすのに最適な言葉ですので、ぜひ覚えておきましょう。 現実的日常とは全く異なる次元に対して大きく開かれたインフォスフィアにあって、ジャーゴンに満ち満ちた、この茫洋たる世界を彷徨う現代の諸氏にとり、拙文がわずかなりともその不安を解くメルクマールたりうるならば、筆者としては望外の喜びであると云う外ない。 といった感じでこの項終わり。
by antonin
| 2008-09-18 10:05
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Comments(7)
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くるみ
at 2013-04-16 15:57
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すごくわかりやすかったです!今まで意味がぼんやりしていたので…やっとわかって、スッキリしました。
ありがとうございました♪
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げたはげ
at 2014-10-22 09:59
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メルクマールの意味がよく分かりました。というだけでなく、独自の調査・考察、そして、練れた文章、感服しました。
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Ikan-rekugakari
at 2015-02-07 14:18
外科分野ではよくメルクマールって使いますよ。
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arainorihiko
at 2015-04-15 19:42
よくわかりました。ありがとうございます。要するにかっこつけてるだけという結論が取り出せて良かったです。
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サボり気味の学生さん
at 2015-06-17 19:45
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助かりました。古典文学の入門書の類を読もうとしてたら突然出てきたので、どのような含意があるのか真剣に悩んで辞書・辞典を何冊も引っ張りだしてました。
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antonin at 2015-06-20 02:20
7年前に書いた駄文が、今でも当ブログのトップアクセスになっています。実は書いた直後はもっとひどい文章で、なのにあんまりアクセスが多いので見かねていくらか手を入れましたが、それでも基本的な内容は当時から変わっていません。
そのうち誰かが正しいことを書くだろう、などと思って放置していましたが、そうはならなかったので自分で書きます。「メルクマール」の意味は、2番目の「判断に使えるわかりやすい特徴」だけです。日本語でも。残りの意味は当時の私の勝手な読み違いです。 メルクマールとは、メダカのオスメスの区別に使えるヒレの形のようなものです。ソフトウェアの品質といった漠然としたものを推定するための、昔ならバグ検出密度、今ならテストカバレッジのような、定型的に数値化可能な指標などです。 ネットで拾える情報なんて、たいていこんな精度のものです。調査の糸口としては有用ですが、それを答えと思うのはやめて、もっと信頼できる情報にも当たりましょう。 と、エピメニデスみたいなオチで。
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at 2015-08-02 16:22
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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