by antonin
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ぶどう太郎の三十人の兄弟の中で五番目に生まれたぶどう五郎は、大きな町へ向かいました。 ぶどう五郎が町に着くと、おばあさんに作ってもらった団子も、残りひとつだけになっておりました。 「よし、この町で宝物を探すとしよう」 と言うと、ぶどう五郎は最後の団子を食べました。 ぶどう五郎は町を歩き回り、宝物のありそうな場所を探しました。すると、一軒の古道具屋がありました。そのお店ののれんをくぐると、ぶどう五郎はお店のご主人に言いました。 「ごめんくださいまし。わたくしはぶどう五郎と申します。わけあって、珍しい宝物を探しております。このあたりに珍しい宝物はございますでしょうか」 するとご主人は言いました。 「宝はあるが、町の宝はピンからキリまでいろいろとある。山海の宝と違って一目見てわかるものではない。ここにはそうした宝がピンからキリまでいろいろと揃っておるから、せいぜいお前さんの目を養ってから、良いと思うものがあればそれを持って帰ると良いだろう」 と。 そうしてぶどう五郎は、古道具屋に奉公することになりました。まずは店先をほうきできれいに掃除して、店の中をはたきできれいに掃除して、店の棚を雑巾できれいに掃除して、店の売り物を刷毛と木綿の手ぬぐいできれいに磨きました。そして井戸から水を汲み、たきぎを買いに走り、お客さんが来れば店の隅で静かに立っていて、お客さんが帰るときにはありがとうございましたまたどうぞと言いました。 ぶどう五郎が毎日毎日そうして働いていると、いろいろなお客さんが来ては、お店の物を買ってゆきました。ご主人は言いました。 「まあまあ連日いろいろなお客様がやってきてはあれこれと言うが、まあまあお前さんは黙ってよく見ておいでなさい」 と。 ぶどう五郎がいつものように働いていると、あるお客さんは、たいそう立派な絵付けの壺を見初めて、ご主人にこれをくれと言いました。ご主人は首をひねって黙っておりました。するとお客さんは、いやいや金ならあるぞと言って、こがねの小判をご主人に見せました。ご主人はまたまた首をひねって黙っておりました。するとお客さんは、足りぬならまだあるぞと言って、こがねの小判をもう一枚重ねてご主人に見せました。ご主人はまたまた首をひねって黙っておりました。するとお客さんは、ええい面倒だ、有り金全部出すから売るか売らぬかはっきり言えと凄みました。ご主人は首をひねりながら言いました。 「お客様がどうしても譲りなさいとおっしゃるならばしかたがない」 と。 するとお客さんは小躍りしながら壺を抱えて帰ってゆきました。お客さんの置いていった小判を拾いながら、ご主人は言いました。 「あの壺はまがい物の店先看板で、あのお客様の身なりならもっと良い品があるのになあなどと思っていたら、気の短いお客様でさっさと帰ってしまわれた」 と。 ぶどう五郎がいつものように働いていると、あるお客さんは、たいそう渋い茶碗を見初めて、ご主人にこれをくれと言いました。ご主人は、五両でいかがですかと答えました。するとお客さんは真っ赤になって、この器なら一両がせいぜいだと言いました。ご主人は目を閉じて、四両までならなんとか負けましょうといいました。するとお客さんは真っ赤になって、この器なら一両二分がせいぜいだと言いました。ご主人は目を閉じて、三両までなら負けましょうと言いました。するとお客さんは少し青くなって、この器は二両がせいぜいだと言いました。ご主人は目を開けて言いました。 「よろしゅうございます。二両でお譲りしましょう」 と。 ぶどう五郎はご主人に聞きました。 「だんな様。私の目にはあの地味な器の値打ちというものがさっぱりと知れません。よろしければだんな様の目利きを聞かせてはいただけませんでしょうか」 するとご主人は目を閉じて言いました。 「あの器なら、一両がせいぜいでしょうね」 と。 ぶどう五郎がいつものように働いていると、あるお客さんは、たいそうくたびれた糸切りばさみを見つけて、これをくれとご主人に言いました。ご主人は一分でお譲りしましょうと言いました。お客さんは、それはいかん、わたしゃ四朱しか持っておらんと言って、苦笑いしながら帰っていきました。あくる日も同じお客さんが店にやってきて、はさみは売れたかねと聞きました。ご主人は、まだまだ売れませぬと答えました。あくる日もお客さんがやってきて、はさみが見えないが売れたかねと聞きました。ご主人は、このはさみはあなたに買ってもらうのを待っているから、客の目に付きにくい棚に上げておきましたと答えました。 あくる日もそのあくる日も、そのお客さんはやってきて、はさみは売れたかねと聞きました。ご主人はお茶をお出しするようにと、ぶどう五郎に言いつけました。ついにひと月がたち、お客さんはお店に顔を出さなくなりました。またひと月がたち、あのお客さんが店に現れました。お客さんは黙って一分金を差し出しました。ご主人も黙って、例のはさみを差し出しました。お客さんは顔をくしゃくしゃにして、大事そうにはさみを抱えて帰ってゆきました。 ぶどう五郎はご主人に聞きました。 「だんな様。私の目にはあの糸切りばさみの値打ちというものがさっぱりと知れません。よろしければだんな様の目利きを聞かせてはいただけませんでしょうか」 するとご主人は目を閉じて言いました。 「修行のない人が持てばくず鉄、しかしあのお客様が握れば十両でも足りない」 と。 来る日も来る日もぶどう五郎は店先に立ち、繰り返し繰り返して同じような仕事に励んでおりました。もうかれこれ一年以上が過ぎようとしたある日、ご主人は目を閉じて言いました。 「五郎さん。もうかれこれ一年になるが、もうたいがい目も肥えてきたでしょう。店の中にあるもので、良いと思うものがあれば持って帰ったらどうです。おじい様もおばあ様も、きっと首を長くしてお待ちでしょう」 と。 ぶどう五郎は答えました。 「だんな様。実はわたくし、すでに一番の宝物を頂いておりまして。物を見る目というものをだんな様に教えていただいたと存じます。まだまだ未熟者ではございますが、だんな様のおっしゃるとおりでございまして、わたくしには帰って恩を返すじい様とばあ様が待っております。お蔭様で帰りの道中で良い宝物を拾って帰るだけの眼力は頂いたと存じます。だんな様にはなんとお礼を申してよいかわかりません」 と。 ご主人はうっすらと笑いながら言いました。 「では五郎さん、明日は店を休むことにして、ちょっと珍しいものでも見に行きましょうか。帰るにしても一年ぶりのこと、一日や二日を慌てることもないでしょう」 と。 あくる朝ご主人がぶどう五郎を連れていったのは、小汚い小屋でした。小汚い小屋の中には病人たちがごろごろと寝ていて、そのなかを小汚い親父がちょろちょろと動き回っては病人の世話をしていました。ご主人が、この丁稚に例の物を眺めさせてはもらえんかねと聞くと、親父は答えました。 「今は忙しいので半時待っとくれ」 「はいはい、なんどきでも待ちましょう」 とご主人は答えました。ぶどう五郎は待つのはひまですからと言って、親父の手伝いをしてやりました。ご主人はうっすらと笑いました。 もうすっかり日も高くなってから、親父はようやくぶどう五郎たちを小屋の奥の蔵へと導きました。親父は、さてこれだがいったいどうするのかね、と聞きました。するとそこには、金銀のぶら下がった、銭の生る木がほんのりと光っておりました。ご主人は言いました。 「この丁稚は五郎さんというのだが、たいそう良く出来た男で、里に待つ育て親のために宝物を探しているそうだ。ちょっとこの木の枝を折って持たせてやってくれんかね」 と。 すると親父は真っすぐにぶどう五郎の目を見据えて言いました。 「良いが、枯らすなよ」 と。 ぶどう五郎は気が引けましたが、ご主人がどうしても一本折れ、折らねばお前さんを帰すわけにはいかぬと言いましたので、ぶどう五郎はしかたなしに、一文銭が一枚だけぶら下がった細い枝を折りました。するとご主人が口を差し挟みました。 「なんの、そんなちんけな枝を取ることもあるまいに、大判の生った枝を折りなさい」 と。 すると一文銭の枝はぶどう五郎の手の中でしおしおと枯れてゆきました。ぶどう五郎がうつむいていると、小汚い親父は真っすぐにぶどう五郎を見据えて言いました。 「どれでも好きなものを折っていけ」 と。 ぶどう五郎は気が引けましたが、これが目利きの試練と知ったので、肝を据えて一文銭が二枚だけぶら下がった細い枝を折りました。しばらく皆がぶどう五郎の折った枝を見ておりましたが、枝葉はつやつやとして、銭は落ちません。それを見て親父が、枝をみずごけに挿してぶどう五郎に持たせてくれました。ぶどう五郎は土間に額を着いて、ありがとうございますと小汚い親父に言いました。 小屋を出ると、ご主人は言いました。 「わたしらのなりわいに、一番の宝というのは壺でも皿でもない、五郎さんのような良い目利きなんだが、帰してしまうのはどうにも惜しい。千両の山も築けるから、どうにか残って働いてはみませんか」 と。 ぶどう五郎は答えました。 「たいそうなお言葉を頂戴して大変嬉しく存じます。けれども里には恩を返すじい様にばあ様に近所の皆様が待っております。だんな様に賜ったご恩に報いるには足りませんが、どうかこの銭のなる枝をお納めください。高く売れるやも知れません」 と。 すると、銭の生る枝にぱっと花が咲きました。 「いや、その枝は大切に持って帰りなさい。ご苦労様でしたね、せいぜいお気を付けてお帰りなさい」 そう言うとご主人は、うっすら笑ったかと思うと振り返りもせずに古道具屋のほうへと帰ってゆきました。ぶどう五郎はご主人の姿が見えなくなるまで両手を合わせておりました。 さて、ぶどう六郎はどこへ行ったでしょうか。それはまた次のお話。
by antonin
| 2008-10-01 00:23
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Comments(7)
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by
fazero
at 2008-10-05 23:45
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つづき が よみたい~
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antonin at 2008-10-07 02:25
>ふぁぜろ
どもども。第一話から第五話までは、子供を寝かしつけるために適当な話をでっちあげて作ってあります。第六話も考えたんだけど、話す前にコドモたちが寝てしまったので、忘れないように書いておきました。というわけでいきなりエピソードIVから開始したけど、六郎以降の話はまだ考えてないんだよねぇ。四郎までの話も、文字に起こして楽しめるほどの純度にできるかどうか。
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ふぁぜろ
at 2008-10-09 18:22
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たのしみ に まてるある
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antonin at 2008-10-11 02:06
まぁ登場人物に数字が付いているので順番はありますが、第一話以外は読みきり形式ですので、ボチボチ気が向いたら書いていこうかと思います。
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antonin at 2008-10-14 23:16
ゼロ太郎(笑)
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fazero
at 2008-10-15 02:22
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え?
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